04

悪魔の囁きが頭から離れない。

好きになる。好きになる。好きになる。誰が誰を?全然分かんない。そもそも私は隆二以外愛せるわけないのに。


「あ、お風呂ありがとうございました。」


ペコッと私に頭を下げる岩ちゃん。礼儀正しいし特に問題はないんだけど…。思わずジーッと見つめていると彼が苦笑いを零した。ちょっとだけ困ったように、照れたように。


「ご飯もうちょっとだから待っててね?」


岩ちゃんと入れ代わりでシャワーを浴びている隆二。だから今ここには私と岩ちゃんの二人きり。岩ちゃんは嬉しそうに笑うと「マジで雪乃さんの料理最高です。」律儀に私を褒めた。彼が見返りを求めている訳じゃないことぐらい分かってる。たんに世渡り上手なんだって。でもそんな彼がなんで仕事辞めたんだろ?


「聞いてもいい?」

「はい。」

「要領良さそうに見えるけど、なんで仕事辞めたの?」


私の問いかけにあからさまに嫌な顔をした。でもかえってそれが血の通った人間らしくて私は今まで岩ちゃんに抱いていた冷たい印象がほんのりとけたような気がした。

冷蔵庫から出したペットボトルの水をラッパ飲みするとゲフッてゲップをする岩ちゃん。その後気まずそうに「あんま、いい話じゃありませんけど…。」対面式のリビングキッチンで、私の前に座ってその薄い唇を開いたんだ。

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