06

「岩田さん、レジお願いします。」


そう言われてハッと顔を上げた。そこにはまるで咲良目当てかのように彼女にピタッと横並びでスーツのリーマンがいた。へぇ、接客は慣れてんだ、この子。


「ありがとうございます。」


服を受け取って会計を済ませた。


「また来るよ、アヤカちゃん。」

「…はい、また来てくださいね?」



アヤカ?誰だそれ。思わずキョトンとした俺を見て苦笑いの咲良。困ったように眉毛を下げて目を伏せたけど…。


「アヤカだったっけ、名前?」

「いえ。あの方は前のバイトの時のお客様で。」

「前のバイト?辞めたとこ?」

「…はい。」


あんま言いたくなさそうな顔で。まぁ興味はないけど気にはなる。でも誰だって言えない過去の一つや二つ抱えて生きているわけで。そこを無理やり聞くのも可哀相だから。


「別に無理に聞かないから安心して、アヤカちゃん。」

「やめてください、アヤカは…。でも、ありがとうございます。」


ニって歯を見せて嬉しそうに笑う彼女に、ドキっと心臓が高鳴ったのは間違いなかった。


prev / TOP / next