「岩田さん、レジお願いします。」
そう言われてハッと顔を上げた。そこにはまるで咲良目当てかのように彼女にピタッと横並びでスーツのリーマンがいた。へぇ、接客は慣れてんだ、この子。
「ありがとうございます。」
服を受け取って会計を済ませた。
「また来るよ、アヤカちゃん。」
「…はい、また来てくださいね?」
アヤカ?誰だそれ。思わずキョトンとした俺を見て苦笑いの咲良。困ったように眉毛を下げて目を伏せたけど…。
「アヤカだったっけ、名前?」
「いえ。あの方は前のバイトの時のお客様で。」
「前のバイト?辞めたとこ?」
「…はい。」
あんま言いたくなさそうな顔で。まぁ興味はないけど気にはなる。でも誰だって言えない過去の一つや二つ抱えて生きているわけで。そこを無理やり聞くのも可哀相だから。
「別に無理に聞かないから安心して、アヤカちゃん。」
「やめてください、アヤカは…。でも、ありがとうございます。」
ニって歯を見せて嬉しそうに笑う彼女に、ドキっと心臓が高鳴ったのは間違いなかった。
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