関西弁


そのイントネーションと言葉は私にはあまり聞き慣れないもので。



「関西弁?」
「わ、すいません。普段は出さないようにしてるんですけど、つい友達相手だと出ちゃって。…(名前)さんあの、これどうぞ。」



目の前に出てきた黒いハンカチと、壱馬くんの関西弁になんでか涙も止まりかけた。素直にそれを受け取って目に当てると、壱馬くんの手がそっと背中を撫でた。やっぱり遠慮がちに。



「僕でよければ、話聞きますよ。」



臣ちゃんと姿形は似ていても声は全然違う。壱馬くんの優しい声に私は小さく首を横に振った。「大丈夫。ごめんね、心配させて。」そう言うと、「心配ぐらい、させてください。」…本当にこの子、純粋に優しいよね、なんてどこか第三者のような感覚だった。

だけど…。



「壱馬、俺ら邪魔?」
「うっさい、ちょお黙っといて。あっちいっとって、頼むから。」



シッシてお友達を手で払う壱馬くん。



「和む。」
「え?」
「壱馬くんの、関西弁、すごく和む。」



ニコッて笑うとちょっとだけ困った、でも安心したように壱馬くんも微笑んだんだ。



「大阪なんです、僕。」
「関西弁で話してよ、私の前では。」
「いやでも、」
「もっと聞きたい。素の壱馬くんの言葉。」
「敬語はだいたい標準語ですけど。」
「じゃあ敬語もいらない。」
「…酔うてる?(名前)さん。」
「ふふ、酔うてる、かもね。ねーだめ?」



困った顔の壱馬くんはとても可愛い。臣ちゃんとあった嫌なことすら忘れられそうな気がする。壱馬くんの腕を掴んでそれをブラブラと振るとまた困った顔。



「プライベートは関西弁が聞きたい!ね?」
「…分かった。ほな、そーするわ。プライベートだけやで?」
「うん!可愛いなぁ、壱馬くん。」



私の言葉に思いっきり顔事逸らされた。ここで壱馬くんに会うなんて思ってもみなかったけど、運命なんてどこに転がっているかわからない。



「あ、それよりほんまに大丈夫?登坂さんとなんかあったんちゃうの?」
「…え、なんで?」
「見ててん。(名前)さんが登坂さんと一緒に帰るの。」
「…そっか、ごめんね。でも大丈夫だから。」



グラスを店員に見せて「おかわり。」そう言うと壱馬くんが「あかんよもう。」私を止めた。



「俺の前では強がり禁止!」



ピンって痛くないデコピン。見つめる壱馬くんは私の腕を掴むと奥にあるビリヤード台へと誘導した。

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