都合のいい女


「(名前)悪い、今日はごめん。」



電話を切った臣ちゃんにそう言われた。あれ?私、結局負けたの?彼女だか、元カノだか知らないけど、私を選んでくれないんだって。だけど仕事以外で臣ちゃんにそんな顔をさせられたのはちょっとだけ嬉しいと思うなんて、どこまで馬鹿な女なんだろうか、私は。



「私、玄関から出て平気なの?」
「うん。大丈夫。ごめんなせっかくだったのに。」



ポンポンって私の頭を撫でる臣ちゃんの手はもう私のものではない。別にわかっていたことだよ。結局臣ちゃんが選ぶのは私じゃない。タイミングよく電話がもしもかかってこなかったとしても、どこかで臣ちゃんが「やっぱごめん。」そう言ったんじゃないかとすら思えた。



「都合いいよね、」
「悪いと思ってる。(名前)の気持ちは、前から気づいてたよ。」



そんな言葉を私に放つ臣ちゃんはどれだけ自信満々なんだろうか?だけどそれでもついていったのは私自身だ。臣ちゃんを悪者にしなきゃ家にすら帰れそうもなくて。私をふわりと抱きしめた臣ちゃんは、小さなキスをくれた。



「…そんなの、欲しくなかった。」



私の言葉に苦笑いしかできない臣ちゃんなんて大嫌い。こんなことになるなら隆二に止めてもらえばよかった。臣ちゃんのマンションから出た私は今更ながら隆二に電話をかけたものの電波の届かないアナウンスに腹がたった。自業自得なのに。バカバカしくて涙も出ない。コツコツと駅に向かうヒールの足音が寂しく耳に響く。だめだ、このままじゃ帰れない。適当にその辺にあった地下バーに入っていつもより強めのお酒を注文した。

数十分前には、臣ちゃんのキスに酔いしれていた自分がバカみたい。



「おかわりください。」



カウンターでマスターだか店長だかにそう言うと、すぐに同じお酒が出てきた。それをまた一気に飲み干したら、カタンと隣に人の気配。顔を向けると「え、(名前)さん!?どうしたんっすか?」…見慣れた壱馬くんの顔に胸が痛くなった。途端に涙腺が緩んで涙が溢れる。そんな私を見て慌てる壱馬くん。



「(名前)さん、大丈夫ですか?なんかあったんですか!?」
「壱馬く、ん…ごめんね、今日…。」
「いや俺は全然気にしてませんから。それより(名前)さん、どうしたの?」



そっと背中に壱馬くんの手が触れる。遠慮がちに。だけど次の瞬間、壱馬くんのもっと奥から楽しそうな声が飛んできた。



「壱馬、ナンパ!?」
「あほ、ちゃうわ!会社の先輩やねん!」

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