ナインボール


「酒飲まんでも楽しめる事、しようや。」



肩を抱かれてビリヤード台の前、既にそこで遊んでいた壱馬くんのお友達3人が一斉に私を見た。それぞれ銀と茶色と赤い髪の3人。みんな社会人?すごい奇抜。



「北人、ナインボールまぜて。」
「えー今いいとこなのに。でも仕方ない、壱馬がやる気なら負けない!」



真っ直ぐにこちらを見た赤い髪の北人くんがニッコリ微笑んでペコリと頭を下げた。



「僕達大学の時の仲間です。初めまして(名前)さん。噂は壱馬から聞いてます。」
「余計なことは言わんでええで、北人。」



バシッて北人くんの背中を叩く壱馬くんが可笑しい。噂って。「私の悪口?」耳元で思わず聞くと目を細めて笑った。「内緒。」って。壱馬くん普段はなんとなく不機嫌に見えがちだけど、こうして笑うと目が無くなって可愛いんだけど、なんだかさっきからそれ以上にかっこよくて、心臓がドクドク脈打っているんじゃないだろうか。



「樹は北人と組んで。慎ごめん、ちょお休んどけ。」



茶髪の樹くんと、銀髪の慎くん。北人くんもだけど、壱馬くんの仲間は文句なしに揃ってイケメンだった。だからか、このバーの中にいる女達の視線すら独占している。



「私やったことない、ビリヤードって。どうやって持つの?」



まずは棒の持ち方からって、壱馬くんが丁寧に教えてくれる。伸ばした人差し指と親指との間で軽く挟む様に握って9つある球を真っ白の球で1から順番に穴に落していく、ただそれだけのゲーム。



「はい(名前)さんの番。こっからやとこの角度がええかな。こっちきて、」



壱馬くんに腕を引っぱられて狙いを定める。わけも分からず「これであってる?」そう確認すると、すぐ後ろに壱馬くんの温もり。私の横にピタっとついて、抱きしめるように一緒に棒を構えた。



「一緒に打つから感覚だけ覚えて?」
「うん…。」
「いくで。」
「ん。」



コンって白球を打つとそれが真っ直ぐに3って書かれた赤い球に当たってスコンって穴に落ちた。



「やった!!!落ちたっ!!」
「うまいやん、(名前)さんっ!」



二人でハイタッチをして爆笑。やばいこれ楽しい。何度か打ってるうちになんとなくだけど感覚も掴めてきた。壱馬くんはというと、そうとう遊び慣れているのか、台に腰掛けて後ろ向きでついたり、壁に当ててバウンドさせてから球に当てたりと、凄技を連発している。

気づくと着ていたジャケットを脱いでTシャツ姿。それが妙に男らしく見えた。

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