欲しかった温もり
「飯食ってこっか。」
外にある自販の前で煙草を吸っていた臣ちゃんに言われて頷いた。お酒を飲むと思っていた臣ちゃんは一口も飲まずに私を部屋に通した。ドキドキしながら初めて入る臣ちゃんの部屋。モノトーンでシンプルだけどやっぱりお洒落。勿論ながらこのマンションは臣ちゃんの設計ではないものの、家具の配置だったり色使いだったり、ラグマット一つ置いても完璧に思えた。思わずそんな部屋に見とれてしまうのは職業病だなぁーなんて。
「ソファー素敵だね。」
「んー?まぁこだわったから。(名前)はやっぱりそーいうの分かるんだ、いいなそーいうの。」
ふわりと伸びてきた臣ちゃんの腕が私の前髪に触れた。途端に心臓がドクンと脈打った。ゆっくりと身体の向きを変えて私を受け入れる準備をする臣ちゃんの腕。その手を掴んだらきっと戻れない。だけどずっと欲しかった、その手の温もりが。散々知らない女を抱きしめてきたその腕が、今この瞬間私に向かって差し出されている。こんなにも心が高揚しているなんて。見つめる臣ちゃんの瞳は切れ長で熱く私を見つめている。ユラユラと揺れる瞳の奥に私の姿が小さく映っていて、「(名前)…。」甘く名前を呼ばれて手首を掴まれた。
「臣ちゃ、」
ん、は言葉にならなかった――――――。
腰に回された臣ちゃんの腕が、私をその場で抱き上げそうなくらい強く巻きついていて。背の低い私は足がカクカクしそうなくらいに首を伸ばして臣ちゃんに抱きつく。まるで映画のワンシーンのような激しいキスに身体持っていかれそうになっているけど、そんなことはどーでもよかった。私って相手に対して愛情もって触れてくれる臣ちゃんが好きで嬉しくて、このまま離れたくないって気持ちが溢れだしそう。
上唇をハムりながらも、舌で歯列をなぞられて思わず身体が仰け反る。キスなんて所詮は抱く行為へ繋がる前戯かもしれない。でもこんなにも心が奪われるような甘くて情熱的なキスは初めてだった。そのままソファーに私を押し倒した臣ちゃんは、黒いレザーをスマートに脱ぎ捨てると、私をギュッと抱きしめた。
だけどその時だった、臣ちゃんの部屋の呼び鈴が激しく音をたてたのは。ビクっとして慌ててソファーから起き上がるとけたたましく鳴り響く臣ちゃんのスマホ。
「ふざけんなよ、たく。」
それでもスマホを耳に当てた臣ちゃんに、私の熱が一気に冷めた様に思えたなんて。
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