傍にいてくれる男


「あの、自分現場で頑張りますんで、設計にこれたらよろしくお願いします!」


壱馬くんが元気よくそう言ったから、軽く手を振った。…はぁ。なんだろうこの溜息。デスクに蹲りたいぐらいの負のオーラをまとった私は壁にかかった時計を見つめた。だめだ、こんな日はさっさと帰って半身浴でもしてリフレッシュしよう。

チラリと臣ちゃんを見ると、スマホ片手に電話中。仕事終わってこれから彼女と合流なわけ?ふうん…。


「(名前)見っけ!飯、行こうよ?」


腕を掴まれて振り返ると現場の隆二だった。唯一、私の気持ちを知っている男。もちろん言った覚えはないのだけれど、どうにも隆二にはバレていたようで、いつもこんな私の変化にいち早く気付いてくれるのも、隆二だった。


「はい、笑顔笑顔。」


ムニュって頬を指で軽く抓られて、隆二に無理やり笑顔にさせられる。だけどこうやってくれる人が傍にいる私は、少なからず幸せなのかも…って思える。何より隆二は優しいし、頼りになるし。


「壱馬も、一緒に行く?お姉さんの相手してやってよ?」


ロッカーで着替え終えた壱馬くんを誘った隆二に「え、いいんですか?」ほんのり躊躇いがちに聞いた。視線は私を捉えていて。ニッコリ微笑んで隆二が「いいよね?」って聞く。ミニ臣ちゃんな壱馬くんは見た感じ誠実で礼儀正しくて何の問題もない。笑顔で頷く私に、ほんのり照れ笑いを見せた。…―――可愛いな、おい。


「食うね、壱馬…。」
「わ、すいません。腹減っちゃって。僕自分の分払いますんで、このまま食っていいっすか?この店めっちゃうまいです!」
「ははいいよ、金は気にしないで。今日は奢り。気にいってくれて嬉しいからいっぱい食って。」


ポスって隆二の手が壱馬の背中を優しく叩いた。斜め前に座っている壱馬くんは嬉しそうにハニかむ。って、それも可愛いな、おい。


「(名前)さん、お酒苦手ですか?」
「え?」
「いや進んでないように見えるんで。」
「あー悪酔いしそうで自粛気味?」


思い浮かべる臣ちゃんの言葉になんとなく酒が進まなくて。隆二がメニューを見て店員を呼んだ。いつも私が飲んでる酒を頼んでいて。


「俺がいるんだから飲めよな。」
「…もう。」


私ってば絶対好きになる方、間違えたよね…。

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