素直じゃない


「ただいま戻りました。」


そんな低めの声に視線を向ける。課長の言ってたフレッシュくんかな?聞いたことない声だし。仕方なく現場のオジサン達の分も珈琲を淹れてそれをお盆に乗せてフロアに戻ると、知らない顔が私を見てペコっと頭を下げた。


「あー壱馬。こっちこっち。」


臣ちゃんが私の肩に腕を乗せて彼を呼んだ。


「壱馬。先週入った新人。今隆二の下で現場やってっけど、本当は俺らの設計がしたいんだって。な?」
「はい。川村壱馬です。よろしくお願いします。」


丁寧に頭を下げる壱馬くんはなんていうかその…「ミニ臣ちゃんみたい…。」つい本音が口に出てしまった。だってなんていうか、似てるんだもん形が。だけど私の言葉にほんのり照れた顔を見せて、それから苦笑いで小さく言ったんだ。


「登坂さんやばいっす。めっちゃ憧れます!」
「お前ほんっと可愛いよね〜。」
「…よくないよ、臣ちゃんになんて憧れたらろくな大人になれないよ?」
「おい(名前)、どの口が言ってんだ?塞ぐぞ?」
「ほらね、すーぐそうやって厭らしいこと言うの。知ってる?そーいうのセクハラって言うのよ?」
「あ、お前なぁ。俺をセクハラ扱いするのなんて社内で(名前)しかいなぞ。」
「ちょっとイケメンでイケボだからって調子にのってる臣ちゃんなんて相手にしないもの、私。」


…私と臣ちゃんのやりとりをキョトンと見ていた壱馬くんがフっと微笑むと「仲がいいんですね。」なんて大人の返しをしたんだ。なんだろう、このイラつき。余裕な臣ちゃんにイラつくし、そう思われることも嫌なんだけど。


「いいよ別に。俺彼女いるから!残念だったな、(名前)。壱馬代わりに(名前)の相手してやってよ?」
「いやいや自分にはとてもじゃないけど。」
「…なんか腹立つ。」
「あ、すいません、失礼なこと言って。」


慌てて頭を下げる壱馬くんだけど。「違うの、なんでもない。」久々に聞いた、臣ちゃんの口から出た彼女いるって言葉に、こんなにも気分が落ちるなんて思ってもみなかったんだ。

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