小さな秘密


建設業界に休みなんてもんはない。


「(名前)、来週末の宿泊施設の設計どうなってる!?」


課長に言われて図面を出した。これかなり苦労したなぁ。私も宿泊施設なんて初めてだったからどうしたらいいのか最初は戸惑ったもので。現場の隆二くんに色んな宿泊施設に連れていってもらったなぁ。


「おーよくできてんじゃねぇか。」
「そりゃあ課長、私かなり頑張りましたもん!」
「お局が板についてきたじゃねぇか(名前)!」
「ちょっと私まだそんな歳じゃありませんよーっだ!」


うちの課長はお調子者って言葉のよく似合う人で、人懐っこくて話しやすくて少々変態な所がたまにキズだけど、とってもいい人だった。設計の仕事は大変だけどやりがいがあって私はこれが天職だって思っている。忙しさを理由に最近めっきり恋愛してなかったりするけど…。周りの友達から結婚式の招待状が届くたびにちょっとだけセンチになるのはもう慣れた。


「フレッシュさが足らないんじゃねぇか?」
「失礼な。イケメン連れてきてくださいよ!そしたらフルメイクで出勤するんで。」
「あーそれなら先週から現場出てる設計希望の奴が一人いるぞ。」
「…え、聞いてませんよ、私!」
「あーそういや(名前)ちょうど先週インフルだったなぁ。紹介すんの忘れてたわ。悪い悪い。」


ポカっと背中を殴られてつんのめる。小柄な私は思いっきり前のめりになって…「危ね、大丈夫!?」同じ設計の臣ちゃんが危うくすっ転ぶ寸前で抱き留めてくれた。


「ぷ、鼻赤けぇよ。」
「…う、うるしゃい。」
「(名前)、珈琲淹れて?」
「んもう、人使い荒いんだから!」
「いーじゃん、(名前)のが飲みたいんだもん俺。」


…―――この笑顔にめっぽう弱いなんて絶対の絶対に誰にも内緒。

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