警戒


隆二が壱馬くんを警戒したのが分かった。歩いていても私を歩道側に入れて隣を歩く隆二に、壱馬くんは後ろをついてくるだけで。今夜のこと、壱馬くんに言わなきゃって思っているんだけどなにぶん隆二がいて話せないでいた。だから、会社について「先に行ってて、便所。」隆二が私にそう告げたから壱馬くんをチラリとみると、彼もこっちを見つめた。



「…僕警戒されてますかね…。」



勘がいいのか鋭いのか、壱馬くんは当たり前に警護で標準語でちょっとだけ悲しそうで。そんな顔を見ると甘やかしたくなってしまう。相手が臣ちゃんなら確実に「そんなことないよ!」なんて励ましの言葉を放っているだろうと思うと、ちょっとだけ可笑しい。


「壱馬くん、隆二になんか言ったりしてないよね?」
「言ってないですよ。逆に隆二さんなんか言ってました?」
「ううううん、なにも。あのね、臣ちゃんとのこと、隆二には何も言ってないけど分かっちゃってて。だから隆二の監察力っていうかそういう勘も鋭いのかなって。」
「そう、ですか。」
「うん…。」
「僕、」


ポンってエレベーターの前、開いたドアから出てきたのは臣ちゃんだった。壱馬くんと並んで待っていた私を見てほんの一瞬眉毛を半分だけあげたように見えて。壱馬くんが「お疲れ様です。」小さく頭を下げると「ふうん…。」って言葉。


「臣ちゃん?」
「なんでもねぇよ。(名前)迎えにきただけ。」


そう言って私に手を差し出す。…なんで?躊躇う私の手を臣ちゃんがちょっと強引に握ったんだ。3人でエレベーターに乗り込む。気まずいな…。


「壱馬、怪我大丈夫?」
「あ、はい。すみませんご迷惑かけて。」
「別に。隆二も新人の頃はよく怪我してたし。」
「そうなんですか?」
「そう。な?」
「あ、うん…そうだったかな。」
「なんだよ、俺の事しか頭にねぇのか、(名前)は。」


クスって笑う臣ちゃんに何も言えない。壱馬くんが「え?」って顔で私を見つめた時、エレベーターは私達のフロアについた。入口にいた壱馬くんがボタンを押して「どうぞ。」って誘導してくれる。でも臣ちゃんはそれを離して「いいよ、壱馬先行ってて。俺達用事あるから。」用事?臣ちゃんを見ると、壱馬くんの背中をそっと押す。一人出て行った壱馬くんがこちらを振り返った瞬間、臣ちゃんがエレベーターの「閉」を押して、そのまま私を壁に追い込んでキスをした――――。

まん丸く目を見開く壱馬くんの顔が、一瞬だけ見えた。

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