心配性な隆二


病院の廊下で既に治療を終えたであろう壱馬くんが私を見て申し訳なさそうに頭を下げた。隆二はちょうど会計に呼ばれていて。


「…無事でよかった。」
「…すいませんでした。」
「大丈夫!?」
「はい。」
「うん、よかった。」
「あの(名前)さん、」
「あー(名前)悪いな。」


壱馬くんの声と被るように隆二が会計を終えてこちらにやってきた。ニッカポッカがよくよく似合っている隆二は、いつもは頭に巻いているタオルを外して、サラサラな黒髪を靡かせていた。ドカっと私の隣に座ると小さく溜息をついた。


「ただの捻挫。鉄筋よけ損ねてんの、壱馬のヤロー。お前さ、現場出てるときは、女の事考えるの禁止な。そうやって怪我する奴結構多いの。…ここ何日かずっと変な顔してやってたからちょっと危ないって思ってたんだよね。俺達現場は無事で帰ることも立派な仕事なのよ。それができないようじゃこの世界では難しいぞ。設計いきたいなら現場しっかりやらねぇと、俺達も推薦できねぇから、しっかりしろよな。」
「はい、すいませんでした。」
「(名前)ちょっと。」


隆二に腕を引っ張られて壱馬くんから離れた。さっきから面白くないって顔をしている隆二だから、なんとなく言いたいことは分かるような気がするんだけど。


「壱馬のこと…どうするつもり?」
「…え?」
「どうっからどう見ても壱馬、(名前)のこと好きだぞ。今日もそれでボーっとして。なんか約束してる?もしかして今夜…。」


鋭い突っ込みに怖気づきそうになる。だけど隆二はいつだって真剣で、心配してくれているからこそ、私の気持ちをこうして確認しているんだって思う。そもそも隆二には嘘なんてつけないだろうし。


「気になってないことはないんだけど、」
「臣の変わりにするつもりならやめろ。」
「そんなつもりはない!」
「じゃあなんだよ?」


臣ちゃんの名前を出されただけでドキドキしてしまう。結局の所、私の中で臣ちゃんの存在を消すなんてことは難しく。今日だって8割臣ちゃんの所に行くつもりでいる。


「うまく話せそうもない。でも臣ちゃんが好きよ。壱馬くんは、この前臣ちゃんとダメになっちゃって、偶然帰りにバーで会って、それでちょっと遊んだだけ。遊んだっていっても一緒にナインボールしてラーメン食べて…それだけだよ。」


抱きしめられたことも、泣いたことも隠す私はずるい?でも言えない。心配性な隆二には。でも一つだけ思う。これ以上壱馬くんを振り回さないって。

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