隆二の優しさ


なにすんのっ!?

なんて、愚問。ほんの一瞬見えた壱馬くんの顔よりも、今この瞬間独り占めできている臣ちゃんの方が嬉しくて、ポーンっとエレベーターのドアを開いた瞬間、スっと離れた。



「馬鹿かお前ら。」



目の前には隆二。トイレにいってた隆二が咄嗟に離れた私達を見て一言呟いたんだ。



「よう隆二。お前は無事だったの?」



何事もなかったかのような臣ちゃんの態度に大きく溜息をついて私を睨む隆二。怖いよーその顔。ただでさえ綺麗な顔した人の真顔って怖いんだからやめてよねー。



「茶化すなよ、臣。(名前)のこと、遊ぶつもりなら俺黙ってねぇよ?」
「なんだよ隆二。つーか遊ぶわけないっしょ。」
「じゃあどーいうつもり?臣彼女いるよね?」
「別れるよ。あいつとは時間の問題。」
「なら別れてからにしろよ、(名前)に手出すの。」
「もー出しちゃってるけどねぇ。ね?」



臣ちゃんの言葉に思いっきり隆二の視線が飛んでくる。慌てて首を横に振って否定すると、それを信じてくれたのかポンって隆二の手が私を軽く撫でた。



「臣は男だからどーでもいいけど、(名前)は女なんだからな。揉めたら仕事だってやりずらくなるし、周りも正直迷惑だよ。そーいうの全部引っ括めて臣が(名前)を何があっても守る!って言いきれるならいいけど、それができないなら俺は反対。」



これが隆二の優しさなんだって思えた。さすがの私も自分で馬鹿なことしてるって分かってる。いつだって正しい隆二の正論は、時に私を苦しめる。私はそんな風に真っ直ぐに生きられない。できるのなら隆二の言うように真っ直ぐ生きていたい。でも恋愛なんてみんな曲がって曲がって苦しいものなんじゃないだろうか。学生の時とはもう違うんだと。



「隆二ありがとう。」



私がそう言うと隆二は小さく息を漏らす。それから眉毛を下げて困った顔。



「分かってるよ。俺だって真剣に考えてやってる。」
「ならいいけど。それから、」



チラリと私を一瞥した後、静かに続けた。



「壱馬を巻き込むなよ。」



ほらやっぱり、隆二は優しい。

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