負けない心
【壱馬くん帰り何時頃?】
…これじゃまるで初々しいカップルじゃん!ダメダメ。でも負けないって決めた。壱馬くんが戻るまで。目を閉じて頬に手を添える。温かくて柔らかい壱馬くんの温もりがゆっくりと蘇ってくる。
辛うじて【送信】を押す前に文字を消した。大丈夫、私は、大丈夫。でもたった数時間で負けそうになる弱い自分がどうか出てこないようにって、一言声が聞けたら…そう思っていたんだ。
「(名前)さん、隆二さんから電話ですよー!」
「え?あ、はい。」
「25番です!」
「もしもし。」
「あー(名前)、壱馬が現場でちょっと怪我しちゃって。今病院なんだけど、ちょっとこれたりする?」
「え、壱馬くん、大丈夫なのっ!?」
「うん。ちょっと腕捻っただけだと思う。念の為の精密検査だから。送ってくって言ったらあいつ(名前)のこと指名しやがってよー。たくお前らどうにかなってねぇよな?」
「場所は!?早く教えて!」
「え、ああ。」
隆二の言葉をメモして、そのまま臣ちゃんの所へ走った。足音がしても振り返りもしない臣ちゃんの肩を叩く。
「臣ちゃんごめん、私今夜無理。ごめんね。壱馬くん怪我したから病院迎えに行ってくる。」
「壱馬?大丈夫なの?」
「うん。とりあえず行ってくる!」
「待てよ。」
走り去ろうとした私の腕を掴んで座ったままこちらを見つめる。
「終わったら迎えに行くから連絡しろよ。」
「え。」
ポスっと立ち上がった臣ちゃんが軽く私を抱き寄せて耳元で「今夜リベンジさせて。」甘く囁いた。壱馬くんのところに行かなきゃって思うのにドキドキしている自分がいて。頬を指でなぞる臣ちゃんが憎い。こんな時、優しい顔する臣ちゃんはずるい。
だけどポロンって届くLINE。臣ちゃんに気づかれないようにそっと画面を見ると、そこには一言。
【おまじない、俺が効いてへんわ(笑)】
壱馬くんの気持ちのこもった言葉に胸が熱くなったんだ。
「連絡する。」
臣ちゃんにそう告げて、壱馬くんの待つ病院へと急いだ。
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