優しさと強さ


「送ります。」



ラーメン屋を出た壱馬くんが紳士にそう言った。



「敬語に戻ってる。」
「あ、いやつい。」
「真面目、なんだよね?そーいうとこ。ありがとう今日は。すごく楽しかった。」
「…ほんま、に?」
「うん。」
「よかった。(名前)さんが笑ってくれたら俺、それでええねん。」



嬉しそうに微笑んだ壱馬くん。そんな私達を一歩離れて見ていた北人くん達の視線に気づいた。



「北人、俺(名前)さん送るから、また。慎と樹もまたな!」
「また一緒に飲みましょうね、(名前)さん!」



北人くんが可愛く手を振ってくれて。「そんな許可はせえへんから。」壱馬くんが身体入れて私を後ろに隠したのがちょっと嬉しい。自分は手繋いでるのに。だから壱馬くんと歩き出してその手をキュッと握り返した。



「わ、ごめん俺!ちゃうねん彼氏きどりとかちゃうねん、そうじゃなくて、離れていかんようにってだけで、変な意味、ちゃうから。でもだから、このまま繋いどってええやん?」



外は真っ暗だけど街灯の下、壱馬くんの頬が赤くなっているのが分かる。



「ありがと。そーいう優しいとこ、素敵だと思う。」
「…はは、その言葉だけで俺、充分や。」
「…え?充分?」
「ええの、あなたは分からんで。」



ピンって痛くないデコピンに唇を尖らせると壱馬くんがそっと目を逸らした。それから家までの道を二人で歩く。



「あの、ほんまに大丈夫?」
「え?」
「好き、なんですよね?その、登坂さんのこと。」



キュッと、壱馬くんの私を握る手に力が込められる。…見られていたとはいえ、まぁ分かるよね。今まで隆二にしかバレなかったはずなんだけどなぁ。



「臣ちゃん彼女いるのよ。」
「うん。」
「…馬鹿だよね、私。」
「そうは思わへんよ。…好きな人と想いが通じる方が奇跡なんやって、俺は思うねん。」



壱馬くんの言葉に、止まっていた涙が溢れてきそうで。この子は、優しさと強さを持ち合わせていて、それを自然と使い分けられるんだって。人前で泣くのは嫌い。自分の弱さをを人に見られるのは苦手。



「ずるい、私のがお姉さんなのに。」
「俺、男やから。」



それだけ言うと、壱馬くんの温もりが私に落ちた。泣き出す私をこの世界の全てから守ってくれているように思えたなんて。

臣ちゃんのことで、初めて人前で泣いた夜。傍にはずっと壱馬くんがいてくれた――――。

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