北人くんの囁き


最初のゲームはどうやらわざと私達に勝たせてくれた様子の北人くん達。だけど二戦目は樹くんが上着を脱いで本気でかかってきたのか、私と壱馬くんはあっさり負けて。三戦目、北人くんは休憩で今度は慎くんと樹くんが本気でやっている。壱馬くんが集中して打ってると北人くんが隣にやってきた。



「いきなり呼び出されたんです今日。壱馬に。
あいつ何も言わないけど女に振られたみたい顔してて。入社して一人仲良くなった女の先輩がいるって、ニコニコしながらこの前会った時話してくれました。」
「うん。」
「これからも壱馬をよろしくお願いします。」



別になんてことない言葉かもしれない。けれどそこには北人くんの優しさが含まれていて。そして、ほんの少し壱馬くんの気持ちも垣間見えたような気がしたなんて。



「あと―――…」



耳元で北人くんは小さく囁くとニッコリ笑って私の肩をトンっと叩く。私達に気づいた壱馬くんがムッとした顔で近寄ってきて。



「北人なんや、いらんこと言うな?」
「俺なんも言ってないよ。ね?(名前)さん!」
「…うん。」
「ほんまに?今めっちゃ耳打ちしとったんはなに?」



無意識なのか、壱馬くんの腕は私を引き寄せていて。掴んだ腕にきゅっと力が込められた。



「壱馬くんの悪口だから、内緒。」



そう言うとまた、痛くないデコピン。クスって笑って「言わな帰さんで、(名前)さん!」壱馬くんの笑顔がくすぐったくて。特別な関西弁とタメ語が私たちの距離を数時間で縮めたといっても過言ではない。



「ラーメン?」
「そう。北人が無類のラーメン好きで、飲みの締めにはいつもみんなで行くねん。(名前)さんも一緒行こ!」



もはや壱馬くんは私の手を軽く握っていて。お酒が入っているせいか、それすら気にならなかった。散々ナインボールを楽しんだ私達は、その足でラーメン屋に入った。なんか男って感じ。みんなで同じものを注文して頼む。真夜中にラーメンなんて完全にカロリーオーバー。でも今日はそれが楽しくてちょっと嬉しくて。



「チャーシュー食べへんの?」
「食べるわよ!最後に残してんの!」
「なんや、とっとく派?俺好きなもん最初に食う派やねんけど。」
「勝手に食べないでよ、私のチャーシュー。」
「しゃあないから慎んでええわ!」



反対側の奥に座っていた慎くんのチャーシューを奪って口に入れる。



「壱馬さん酷いっ!」



泣きそうな慎くんにみんなが笑っていたんだ。

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