キス事情
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【said 朝海】
哲也さんに抱かれた次の日は肌の調子がいい。仕事も順調。なんのトラブルもなく過ごせる。
今日は映画でも見て帰ろうかなぁなんて思ってタイムカードを押しにオフィスに入ると奥のデスクに哲也さんの姿が見えて自然と頬が緩む。
「朝海ちゃんお疲れ様!」
手前にいたゆきみさんがニッコリ微笑む。
その顔を見て思い出したんだ。
口を開こうとした瞬間、ガチャっとまたオフィスのドアが開いてシフトあがりのスタッフが数人入ってくる。
そこにはマイコさんもいて、後ろには金魚のフンみたいにまこっちゃん。
こいつ、いつもマイコさんにベッタリだな。まぁ研修担当だし、PJは一度の失敗も命取りになるからなぁ。
でもその後ろ、いっちゃんがこれからシフトインで時間ぎりぎりタイムカードを切った。
そのまま迷うことなくゆきみさんを見て「おはよう。」…あ、敬語とれてない?
「おはよ。」
なんかあったでしょ、二人!
だってなんか、醸し出す空気が痒い。てゆうか、ピンク背負ってる。
まさか!!
あたしは隣にいたマイコさんの腕を掴んで聞いたんだ。
「ね、もしかして二人進展した?急接近だよね?チューとかしたかな?」
「…えっ!?え、あの、その…」
途端に真っ赤になったのはゆきみさんじゃなくてマイコさんだった。
見つめる先のまこっちゃんは振り返って「ち、違います!」そう言うんだ。
はっ!?なにごと?
「あの違います!マイコさんじゃなくて、僕が勝手にしたんで、本当に、僕のワガママで!!」
なんの弁解?え?見つめるマイコさんもまこっちゃんも笑えるぐらい真っ赤で。
「チューされたの?まこっちゃんに?」
「だから僕が勝手にした、だけです!」
マイコさんの腕を引っ張って後ろに隠すまこっちゃんは男だけど、
「たぶん、ゆきみちゃんに聞いたんだよね、朝海は。」
シレっと笑いを堪えながら哲也さんが口を挟んだんだ。
「うん。ゆきみさんといっちゃん!」
でもそう言った瞬間、金庫からお金を出し終えた直人さんが渋い顔をしたんだ。
「ピンク背負ってるゆきみさん。いっちゃんとキスしたでしょ?」
わざと言ってみた。直人さんがどうでるのか、いっちゃんがどうするのか。
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