怒りの矛先
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今の今までマイコさんとまこっちゃんのキス事情に驚いた顔をしていたゆきみさんが思いっきり困った顔。
いっちゃんはそんなゆきみさんをジッと見つめてから一言ボソッと言ったんだ。
「僕のワガママで、勝手にしただけです。」
まるで同じ台詞をいっちゃんに言われたまこっちゃんが恥ずかしそうに顔ごと逸らした。でもしたんだな、マイコさんとまこっちゃんの二人も、ゆきみさんといっちゃんの二人も。
ポンと何も言えないゆきみさんの頭に手をつく直人さんは、一つ息を吐き出してあたしを見た。
「そーいうのはスタッフルームでやれ、立花。タイムカード押したらさっさと出て行け。」
やば、本気で怒ってるかも。
いつもみたいな冗談にはとうてい聞こえなかったド低い直人さんの声色に口を閉ざす。
頭を下げて「すいません。」小さく言うと「まぁまぁ、若いね、みんな。」…哲也さんの声にちょっと生き返った。
「ムカつく!片岡!あたしばっかりコケにしやがって!!」
更衣室に入った途端叫んでやった。
ゆきみさんとマイコさんはまだシフト中だからそのままオフィスに残っていて。
まこっちゃんと一緒にスタッフルームに入ったけど怒りはおさまらない。
着替えようと思ったけどとてもそんな気分にはなれなくて、仕方なく再度スタッフルームに顔を出した。
「あ!立花さん!あがりですか?」
「…うん。」
「あの、俺と飲みに行きませんか?」
「…え、なんで?」
「ダメ…っすかね?」
…こいつこんなタイプだったっけ?
2人きり?はちょっとなぁ…。
ちょうどかじゅまがシフトあがりでスタッフルームのドアを開けた。
だからかじゅまの腕に絡みついて「かじゅまが一緒なら行く。」そう言うとカミケンがヘラって笑ったんだ。
「朝海さん、かじゅま呼びやめろや。」
「なんでよ〜!可愛いからいいじゃん!」
髪の毛をクシャクシャってすると思いっきりかじゅまに睨まれる。
「ほんま俺、犬ちゃうねん。」
「飼いたいかじゅまのこと!」
「飼わんとけ!」
腕をペシってひるがえされるけどへっちゃら。
「壱馬、飲み行こうよ、一緒に!」
「健さん。えーっと…俺慎迎えに来てて…。」
「ちょうどいいじゃん。まこっちゃんに聞きたいことがいっぱいあるもん!」
ニヤって笑うとまこっちゃんが困った顔でかじゅまを見た。
「今日は勘弁して、朝海さん。」
「じゃあカミケンと二人で飲みには行かない!」
フンってするとかじゅまが小さく溜息をつく。
「たく。ほんまに世話が焼ける先輩やな。ええよもう。慎も一緒ってことならええよ。」
結局の所、何故かカミケンに好かれてる?あたしのワガママを呑んだかじゅまはお酒も強いんだって知る。
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