恋の始まりA
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【said マイコ】
女は想われた方が幸せだって、よく言うよね?
「長谷川くん、渡したいものってなんだったんだろ?」
臣ちゃんとのキスを回避してくれたのはすごく助かった。あのままキスなんてされたら堪んない。
とりあえずは、ゆきみさんや朝海ちゃんに要注意して!って言っとかないと。
そう思ってスマホのロックを解除してLINEを開いた瞬間、長谷川くんからメッセージ。
あれ?え?
【マイコさん、電話してもいいですか?】
電話するのに申請必要?ちょっとおかしくて、すぐに【イイよ。】って返す。
【やっぱり顔みたい、ちょっとだけ会えますか?僕まだすぐ近くにいて。】
【うん、家おいで。】
【ありがとうございます!すぐ行きます!】
そんな返事をして1分もたたないうちに、呼び鈴が遠慮がちに鳴った。
ドアを開けるとキャップを被った長谷川くんが、白い息を吐いてたっている。
「寒いでしょ、珈琲でも淹れるから中入って。」
「…あ、いや、大丈夫です。中入ったら色々危険なんで。」
「危険?でも、」
「ほんとに!大丈夫です。これ渡したかっただけなんで。」
そう言って長谷川くんは後ろ手に隠していたのか、小さな花束のブーケを私に差し出したんだ。
こんなもの、貰ったことなんてなくて。
キョトンと見ている私に「気に入らなかったですか?」って声。
「ううううん、そうじゃないの。え、これ私に?」
「はい。壱馬さんと別れた後、たまたま通りがかった花屋にこれがあって。なんかマイコさんのイメージに合うなって思ったら買わずにいられなくて、」
照れくさそうに頬をかきながら私の胸の前にもう一度差し出した。
「やっぱりよく似合ってる。」
嬉しそうに笑う長谷川くんに、胸の奥でリンゴーンリンゴーン鐘が鳴った気がした。
やばい、これは。まずいぞマイコ。
「あり、がとう。こんなの貰ったことないからすごく嬉しい。」
「僕も、花なんて初めて買いました!」
へへへって笑う長谷川くんの腕を気づいたら掴んでて。
「お礼しなきゃって思うけど、ごめん何も浮かばない、」
「……いらないです、お礼なんて。勝手にしたことなんで。でも、」
え?長谷川くんが近づいてくるのがスローモーションで見える。
いくら恋のしかたを忘れたといっても、これが何を意味するのかぐらいはわかってる。
臣ちゃんの時みたいに、やめて!って抵抗すればできたはず、でもできそうもない。
だって長谷川くんに触れられるのが、自分でも吃驚するくらい嫌じゃない。
これは夢でも妄想でもない、現実だ。
目を閉じた私に長谷川くんの唇がそっと重なったんだ―――――
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