どうしたらいいか 

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「送ります。」

「大丈夫。一人で帰れる。」

「や、送ります。危ないし…。」

「平気だよ。こんなババア狙う奴なんていないし。」

「それやめませんか?」


立ち止まってわたしの腕をギュっと掴む樹。なんともやるせない顔でわたしを見下ろしている。


「え、なに?」

「ゆきみさんの壁って、俺が年下だから、ですよね?そうやって自分のこと下げて言うのやめましょうよ。」


年下でイケメンで、


「あの俺、ダンスばっかやってたからそういう付き合いとか正直ピンとこなくて。回りの友達に彼女ができたって聞いてもダンスより楽しいわけないって。でも最近映画を見るようになってそういう甘い幸せもいいな…って思い始めたんです。今まで誰とも付き合ってこなかったのはダンス一筋だったから。でも今は違います。ちゃんと欲しいと思ってる、彼女。できれば、あなたみたいな人と…。」


嘘には聞こえなかったし、そんな風に言われて自惚れたくもなる。調子にだってのってやりたい。でも…―――


「うちの劇場、若くて可愛い子いっぱいいるよ。」

「俺にはゆきみさんが一番可愛いく見えてるんですけど。」

「そんなわけ、ないよ。」

「じゃあ何言ったら信じるんだよ、」


イライラしているのがわかる。

無言で樹に背を向けるとそのまま家に向かって歩き出す。これ以上話すことないって。



「待ってごめん。何をどう話せばいいのか分からなくて。女と二人で飯食ったことなんてないから俺も緊張しちゃって。ゆきみさん他人行儀で俺の事突き放すし、どうすりゃいいかずっと考えてたけどわかんなくて…。怒ってるんじゃなくて、どうしたらいいのかわかんないんです。でもやっぱり初めて欲しいと思ったから、そんな簡単に諦めないし、引けない…。もっと俺の事、見てください…。ちゃんと男としての俺を…。」


そんな必死にわたしを止める樹に胸の奥が熱くなった。


「…いっちゃん。」

「そんな困った顔、しないで…。どうしたらいいかわかんないから、抱きしめたくなる…。」


樹の腕がふわりとわたしを包み込んだ。


「…あったかい、いっちゃん。」

「…うん。」


ぎゅうって強くわたしを抱きしめる樹の心臓は全力疾走したかのように早鐘を打っているのがわかる。

からかってるなんて思ってごめんね。

わたしも、樹があまりにかっこいいからどうしたらいいのかわからないんだよ。


「ゆきみ、さん…。」


しばし抱きしめていた樹がふいにわたしを呼んだ。


「うん?」

「…あ、やっぱいいや。」

「…なに?気になる。」

「言ったらドン引きされそうだからちょっとやめときます。」

「ドン引き?え、なに?言って。ドン引きしないから。」

「…―――キス、して?」


…キス!?

えっ!?


「ほら引いてる。勇気だして言ったのに。」


樹が目を逸らした。そんなこと言われるなんて思ってもみなくて。

言った樹よりも、言われたわたしの方が物凄く恥ずかしい気がする。

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