他人行儀な壁
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【said ゆきみ】
「入ってみたいと思ってたんだ、ここ。」
ジャガイモ料理のお店。前から気になっていてずっと入りたかったんだけどなかなか行く機会がなかったお店に樹は連れてきた。
「ゆきみさんってすげぇうまそうに食いますよね。そーいう人好きで。女だからって小食アピールする奴とか嫌いで。」
「…それってわたしが食いしん坊ってこと?」
「そうじゃないです、単純に可愛いな…って。」
…彼女いない歴=年齢には決して見えない目の前の樹。慣れたようにわたしを誘いだした樹はお酒をおいしそうに飲んで上機嫌だ。
だいたい朝海ちゃんの言う運命の女をやすやす信じるものなんだろうか?え、待って、わたしもしかしてからかわれてる?
童貞捨てるための道具?
年上だし、まぁいいか…って、そういう対象?
「…いっちゃんみたいなイケメンに可愛いって言われて光栄です。」
他人行儀に言ったらそれが伝わったのか、渋い顔でわたしを見た。だってやっぱり信じられない。
哲也さんの言う遊びだったらわたし悲しいし。いい年して年下に熱入れて遊ばれて捨てられたなんて話、笑えないし、誰にも報告なんてできない。
「なんか壁ができた…。」
少しだけムスっとした顔で小さくそう言った樹は、初めて二人きりできたこのご飯、ほとんど何も喋らなかったんだ。
さすがに怒らせちゃったのかも…って思ったけど、それならそれでいい。構わない。その程度だってことで、わたしも本気になる前に終わらせられるから。
こんなつまらない食事は二度とごめんだ。
「僕、出します。誘ったの僕だから…。」
僕、なんて。樹もわたしに壁を作ったような気がした。
「…ご馳走様。」
払う気ないワガママな女だって思えばいい。わたしにはこんな恋愛は無理だよ朝海ちゃん。年下のイケメン相手になんてできやしない。
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