恋のしかた
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「なんか、新人入ってきてからちょっとざわついてるよな。てか女の子今回ゼロなのはなんで?男ばっか入れやがってさー。」
「それは同感や。俺も女の子を求めとる!」
「ふふ。臣ちゃんはともかくとして健ちゃんまで?やっぱりクリスマスだから彼女欲しいの?」
「当たり前やん。おっぱいに顔埋めて眠りたい…。」
「却下。気持ち悪いこと言わないで。」
「あほう、男なんてみんなそんなもんや。マイコの好きなまこっちゃんかて、おっぱい好きやで絶対!」
揉み揉みって指の第一関節だけ厭らしく曲げるエロ目な健ちゃんをパコっと叩いた。
「長谷川くんをそんな位置に下げないで。おっぱいよりも、写真やビルのが好きに決まってる!」
お酒の酔いが早いのか、健ちゃんの下ネタもいつも以上だった。
長谷川くんはそんな下品じゃありませんよーって。
「今頃マイコのおっぱい想像してシゴいてんちゃうか、まこっちゃん!」
バッチン!思いっきり頭を殴ってやった。ついでに健ちゃんのビールにもんじゃをぶっ込んでやった。
「ばかちん!これでも飲んどけ!」
「あークソ不味い。なにすんねんでぇ。」
「悪酔いしすぎ、健ちゃん。俺が送ってあげるからね、マイコ。」
だけど健ちゃんに送って貰うべきだった、って思ったなんて。
「近いからいいよ。」
そう言ったけど臣ちゃんは私の家まで送ってくれた。
咥え煙草で隣を歩く臣ちゃん。
「一気にクリスマスモードだなぁ。」
最近は自宅を飾り付けする家が増えて、私の住むアパートまでの道すら煌びやかだった。
「臣ちゃんはイルミネーションとか見に行くの?」
「あー女が見たいっつったらなぁ。」
「ふふ。優しいじゃん。」
「そりゃね。マイコもまじでそろそろ本気で男好きになったら?」
「なに?急に。」
「いや普通に思ってたよ。マイコに限らずだけどさ。ゆきみとかも。」
「…本気って、どんな?誰かを好きになるのに、本気ってどんなかな?臣ちゃん。私恋のしかた、完全に忘れてるかも。」
最後に彼氏がいたのは何年前だったっけ?それすら思い出せない。
「思いださせてやろうか?」
「え?もう、いいよそーいうの。」
だけど臣ちゃんは私の手首を掴んで次の瞬間ふわりと胸の中に閉じ込めたんだ。
「…ちょっと離して、酔ってるでしょ、臣ちゃん!」
「酔ってるけど、離したくない。思いださせてやるよ、キスのしかたも、」
臣ちゃんが近づいてきたのが分かった。嘘でしょ、やだやだ!
「なに、してんっすか!!!」
え、え、え、なんで?
私を臣ちゃんから剥がしとったのは長谷川くんで。
「長谷川くん、どうしたの?」
「…キスは反則です、登坂さん。」
「お前、ストーカー?なんでこいつの家知ってんの?」
「昨日送りました、家まで。ちょっと渡したいものがあって、寄っただけです。」
息が上がるぐらい臣ちゃんを威嚇している長谷川くんに、さっきの健ちゃんの言葉が頭を過ぎる。
単純に可愛いだけだと思ってたけど、こうやって臣ちゃんから守ってくれて、私…。
「でも今日は帰ります。…マイコさんが無事でよかった。また。」
初めて「マイコ」って呼ばれた。自分でも笑えるぐらい心臓が脈打ってるなんて。
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