癒し系健ちゃん
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【said マイコ】
「お疲れ様、長谷川くん。」
「中沢さんも、お疲れ様でした。」
「川村くんとご飯楽しんできてね!」
スタッフルームまで一緒に並んで歩く。
スラッとしている長谷川くんは小柄な私から見たら見上げるほどで。
だけど話す時にほんの少し屈んでくれるのが嬉しい。
「あの、今度は二人で飯、行きませんか?」
「え?」
「もっと色んな事、話したいです、中沢さんと。もっといっぱい、知りたい、です、中沢さんのこと。」
純粋に可愛いって、思ったんだ。
「可愛いって振り幅ちゃうで、それ。」
目の前でもんじゃ奉行を遂行している健ちゃん。コンセのセクションリーダーの健二郎くんはいわゆる癒し系で、私達の中でも色んな相談にのってくれる人だった。
今日はたまたまた健ちゃんとあがり時間が同じで一緒にご飯に行く流れになったんだけど。
「なにが?」
「まこっちゃん。」
「え?なんで?」
「自覚無しってとこがマイコらしいけど。」
笑いながらビールを流し込む隣の男はフロアのセクションリーダーの臣ちゃん。
朝海ちゃんが物凄く懐いてるイケメン。
うちの劇場には臣ちゃん目当てで映画を見に来る女子高生がたくさんいるって噂。
スっとできたてのもんじゃを取ってフーフーってすると、それを私に差し出した。「うまいよ。」一言添えて私に食べさせる臣ちゃんは、女の扱いが特段うまい。
一時期臣ちゃんを好きになりかけたけど、遊び人で特定の彼女を作らないみたいだったから辞めた。遊びの恋ができるほど器用じゃないし、そんな女ではない。
「自覚無しって?」
「まこっちゃんは自覚してんやろなー。知りたいって言葉をマイコに言う辺り。」
ビール一杯で顔が真っ赤になる健ちゃんは、思いっきりもんじゃを口に入れてアフアフしている。
「何を言わせたいの?」
私の言葉に臣ちゃんの腕が肩に回る。ポンポンってしてからそっと耳元で小さく囁いたんだ。
「俺のマイコが、慎のもんになっちゃうの、やだな。」
ぞぞぞぞって鳥肌。思いっきり臣ちゃんを睨んだ。
「誰のマイコよ?臣ちゃん彼女作ったくせに。」
「妬いてくれんの?マイコが嫌なら別れるよ?」
「絶対やだ、そんなこと言う男、朝海ちゃんやゆきみさんが同じ状況だったら、私と付き合っててもそうやって慰めるんでしょ?どーせ。」
スっと臣ちゃんの腕を払うとくすくす笑った。
女たらしって言葉は、臣ちゃんの為にあるようなもんだって思う。
「どーせって言うなよ。女が悲しんでたら慰めるのは男の役目だろ。」
「別に私悲しんでないもの。健ちゃんに近況は?って聞かれたから話しただけだしー。」
グラスビールを飲み干して「おかわり。」そう言うと健ちゃんが新しいビールを注文してくれた。
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