いっちゃん 

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ボックスヘルプを終えてオフィスに戻ると遅番のハルカが既に来ていた。


「ハルカ、翔ちゃんどう?」

「あ、ゆきみ先輩!岩谷くん、ですよね?」

「そーそー。どんな感じ?」

「大丈夫そうですよ。覚えもいいし。」

「ふうん、で。青山くんとどうだったの?」


デスクに肘をついてそう聞くと、ポンっとハルカの顔が真っ赤になった。

分かりやすいなぁ、この子も。

思いっきり目を泳がせて「なななななんのことですか?」なんて聞き返す。


「この前、一緒に帰ったんだって?」

「いや、違くて。岩谷くんと仲がいいみたいで、たまたま一緒に帰っただけです。」

「へぇ〜、翔ちゃんと二股?」

「違うううううー!」

「まぁまぁいいじゃん。ハルカもまだ若いんだからさ、恋すりゃいいのよ。」

「でもゆきみ先輩と藤原くんのが噂になってますよぉ?」


なんだって!?

思いっきり目ん玉出そうなぐらいハルカをガン見すると、ニッコリ微笑んだんだ。


「あ、でも分かんない。岩谷くん情報ですけどね。岩谷くんと藤原くんも仲良しみたいですよ?」

「え、そうなの?なんか仲良しがいっぱいいるなぁ、いっちゃん…。」

「…いっちゃん?」


キョトンと聞き返したハルカにハッとする。


「いっちゃんって呼んでるの?ゆきみ先輩。」


椅子ごと距離を詰めるハルカに眉毛を下げて目を逸らした。


「…樹って呼べって言われて、でも恥ずいから他になんて呼ばれてるの?って聞いたらいっちゃんって…。それならって…。朝海ちゃんとかもいっちゃんって呼んでるみたいだしいいかなって…。」

「可愛い、ゆきみ先輩!」

「もう、からかわないでよ…。」

「からかってないですよ!いっつも可愛いもん、ゆきみ先輩。実際のとこ、どうなんですか?藤原くんのこと…。」


どうって聞かれても…。


「わかんない。でも、ずるい。いっちゃんずるい…。」


耳元にまだ残っている「運命のヒト」もう歌詞も何もわかんないぐらいドキドキした。でもちょっとだけハスキーに低い樹の囁くような歌声はわたしの心を確実に乱した。

一呼吸おくと、直人さんがこちらを見ていたことに気づく。

ほんのり目を細めて溜息をついた。

今の、聞いてたの?

哲也さんの言葉が頭の片隅を過ぎる。


「ね、ハルカ。遊びと本気の違いって、なんだろ?どれが遊びでどれが本気かなんて、わたしよく分からない。いい歳して馬鹿みたいって思うかもだけど、いっちゃんが入ってきてからわたし、ちょっとおかしい…。」


真剣にわたしの話を聞いていたハルカは、ふわりと笑うと「遊びの人は、いない気がします。みんな本気に見えます。だからゆきみ先輩も本気で苦しいんだよ。」…本気で苦しいのかも正直分かってない。

でも頭の中を支配しているのは確実に樹だ。

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