遊びと本気の違い? 

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結局昨日は大樹ちゃんがあがって朝海ちゃんを連れて帰ってしまったから何も言わずじまいだったんだけど…。

ボックスの前を通ると、中でえみと岩ちゃんが楽しそうに話している。

理想だなぁあの二人。

あんな風になりたいなぁ…なんて見ていたからだろうか、ボックス内のえみと目が合った。

隣の岩ちゃんもニッコリ微笑んで小さく手を振ってくる。

でもイケメン彼氏を持つってことはそう…


「あのこれ…。」

「え?」


スッと岩ちゃんのレジ前に並んだ女が何かを渡した。

そのままペコっと頭を下げて逃げるようにいなくなっちゃったけどあれって…。


「LINEのIDだろうなぁ〜。」


そんな独り言を言いながらオフィスのドアを開けると、目の前に直人さん。


「うお!ごめんごめん、はい、お帰り。」

「直人さん、岩ちゃんまたLINEだか何だか貰ってましたよ…。」

「マジ?岩田めぇ!たまには俺にもよこす女いないわけ?」

「ふふ、本当に貰ったら丁重に断るくせに。」

「こーら、俺の脳みそ読まない!飯食ってくんな。」


ポンポンって直人さんが笑って出て行った。

その後ろ姿を見ていたら急にニュイっと視界に入ってきたんだ。


「!!!!いっ…。」


慌てて口をつぐんでくるりと背を向ける。

そのまま逃げるようにオフィスに入って行こうとするわたしの腕をがっつり掴まれた。


「あからさますぎてバレてますよ。」

「…離してよぅ。」

「離したら逃げますよね?」

「うん。」

「じゃあだめ。一応僕も傷つくんで。」

「…何しに来たの?」

「映画見に来ました。2本見るんで、終わったら飯行きましょうよ。ちょうどゆきみさんのあがり時間ぐらいですし。それとも一緒に映画見ます?」

「それはだめ!」

「じゃあ飯ね。ってことで、ハンコください。」


ニって口端をあげてわたしの背中を押しながらオフィスに一緒に入ると、哲也さんがこっちを見て楽しげに笑ったんだ。


「なるほどね。藤原樹くんにしたんだ、ゆきみちゃんの相手。」


樹が映画を見に行った後、小さく呟く哲也さん。


「朝海ちゃん情報ですか?」

「まぁそんなとこ。でもさ、直人、じゃなくていいの?」

「哲也さんも朝海ちゃんも味方なのか楽しんでるだけなのかわかんない。」

「少なくとも朝海は味方、でしょう?」

「哲也さんは楽しんでるだけ?じゃあ聞きますけど、哲也さんは彼女とどんなクリスマスなんですか?毎年デートもろくにできなくて悲しまないんですか?」

「あっちも忙しいの、お花屋さんだから。」

「え?そうなんですか?えーなんか女って感じでいいですね、お花屋さんって。」


基本的にあまり自分のことを話したりしない人だからなんか意外で。

彼女を思い浮かべているのか、いつもより優しげな表情に見えた。


「まぁ俺の事はもうね。直人傷ついちゃうんじゃないの〜?」

「もう。直人さんが本気みたいに言わないでください。」

「そうしたいんだろ、ゆきみちゃんが。でも悪いけど、遊びと本気の違いぐらいいい加減分かってあげなきゃね。」


ポンポンって哲也さんはわたしの肩を叩いてボックスを指さした。


「あ、ヘルプ行きます。」


なんだかモヤモヤがまたわたしの脳を支配しているんだった。

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