ダンス仲間たち
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―――それを運命と呼ばずに何を呼ぶのだろうか…。
翌日シフトに入ると昨日の出来事をケンチさんから聞いた。
研修担当だった隆二くんは責任を感じてしばらく神谷くんに付きっきりになるんだろうなーって。
「おはようございます、中沢さん!」
「おはよ、長谷川くん。」
「寒いっすね。」
「ね。鍋食べたいなぁ、鍋。」
「俺も、鍋食べたい!って思ってました!また一緒。」
照れたように微笑む長谷川くんに私もつられて笑う。
「今度うちおいでよ?鍋食べよ一緒に。」
「いいんすか?」
「うん。もちろん!朝海ちゃんやゆきみさんも誘ってみんなで食べたらもっと美味しいだろうし!」
じっと私を見た後、「はい!」って笑う長谷川くん。
彼と一緒にいると空気が浄化されていくようで、自然と笑顔も零れている自分がいるなんて気づきもしない。
「男子ー!男子ちょっときてー!」
突然階段手前の入口からそんな叫び声が聞こえて長谷川くんと振り返った。
ぜぇぜぇしながらゆきみさんが、届きたてのドデカイフィルムをそこまで運んでくれた様子。
「僕運びますよ、あっちまで。」
「え、いいの?」
「もちろんです、」
一緒に歩いてくるのは確かフロアの川村くん。
ルンルンしながら川村くんを連れて歩いてくるゆきみさんに、長谷川くんが慌ててフィルムを取りに走った。
「すいません重たいのに。僕変わりますね。壱馬さんおはようございます!」
「慣れた?」
「いやぁ、全然です。壱馬さんは?」
「俺も全然。でも毎日勉強になる。このバイトすげぇ楽しい!」
思わずゆきみさんと目を見合わせた。
イケメン同士、知り合いだったの?って顔で。
「二人とも、知り合い?」
だからそう聞いたら川村くんが「はい。大学の後輩です慎は。」なるほどー!
「そーなんだ。」
「僕ら、だいたいみんな知ってます、新人の奴ら。同じ大学のやつも多いですし、趣味のダンスで一緒の奴がほとんどですけど!」
「なにそれ、趣味のダンスって!」
興味津々でゆきみさんが食いつく。
「俺も慎も、CLAMPってジャンルなんすけど、ストリートでよく踊ってたりします。健さんとかやましょーさんも、あ、あと樹も!」
「えっ!」
…樹に反応したのかな、ゆきみさん。
途端に顔が真っ赤になって目を逸らした。
え、なにこの反応!
クランプよりゆきみさんのが気になるじゃん!
「あの、えっと、まこっちゃん、でいいのかな?い、…藤原くんが話してたまこっちゃんは長谷川くんのこと?」
「僕です。樹さんは一つ先輩。」
「あ、やっぱり。あのあのね、藤原くんて、どんな子?」
真っ赤な顔してそう聞くゆきみさん。
完全に恋する乙女なんだけど!
思わず吹き出した。
当たり前にみんなが私を見るわけで。
「あ、ゆきみさんごめんね。なんか可愛くて。藤原くんとなんかあったんですか?」
思ったことをそのまま口に出してしまった。
「中沢さん、それ今、あかん。」
何故か空気を読んだのは川村くんで。
不意に腕を掴んでそう言われたんだ。
「え、ダメだった?」
「なんとなく。」
「うそ、ゆきみさん今のなし。」
そうは言っても泣きそうな顔したゆきみさんは困ったように苦笑い。
「川村くん、もっと早く教えてよ。」
「いやそこ知らんし。」
「もー。」
「あの!壱馬さん、時間、大丈夫ですか?」
…私チビだから長谷川くんが前に立たれると何も見えないんだけどなぁ。
私を背に隠すように立ちはだかった長谷川くんに、「あ、うん戻る。慎何時まで?飯行こうや、帰り。」川村くんの誘いに「3時です。」答えた長谷川くんの声は何だかちょっと強めに聞こえたなんて。
「わたしも、出直す。マイコ、またね!行こ、川村くん。」
「はい。じゃあ、慎をお願いします。」
丁寧に私に頭を下げてゆきみさんと戻って行ったんだ。
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