トラブル発生 

( 14/88 )


啓司さんが劇場内に入って上映停止の説明をしている。運よく小さな劇場だったからお客さんも少な目で文句たれそうな人もいなさそう…。


【岩田です、あと5,6分で上映できると思います。】

【片岡了解。啓司さん大丈夫ですか?】

【黒木了解、無料券配布お願いします。】

【一ノ瀬です。動員数18名なので今作ってます。できたら持っていきます】

【お願いします。】



トラブルに慣れてるな〜ゆきみさん。


「あの、俺達はなにかするんですか?こーいう時って…。」


新人かじゅまがキョトンとした顔をしていて。


「ないよ、今は。手伝う時は言われるし。だいたいが臣ちゃんパイセンや大樹ちゃんが手伝ってるけどね。」

「なるほど。えっと今のはどんな…。」

「ん〜PJのことはよく分かんないけど、影直そうとしてフィルムがからまっちゃったんじゃないかな?岩ちゃんパイセンがいてくれてよかったよー。今日はケンチさんもマイコさんもお休みだし。」

「岩田さんはボックスちゃうんですか?」

「岩ちゃんパイセンはマネージャー志望で、その試験を受ける為に全セクション研修で回ってて。最初がPJだったからPJ業務はもう完璧にこなせるんだよね。」

「かっこいいっすね。」

「顔もね〜!」

「…はは、そうっすね。」

「上映再開しても次のインターバルが削れるから終わったらすぐに清掃して、開場しないとだな。今日は運がいいのか悪いのか、人が少ないね。」

「むっちゃ勉強になります。土日もすごい忙しかったですけど、平日もこんなことあるんやって。」

「いやこれ土日にやられたらたまんない。平日だからまだ許せるけど…カミケンの奴、ちゃんと教わってないのかな?やましょーがセットした方がよかったんじゃないの?」


仕事のできない男は好きじゃない。

男たるもの、仕事が完璧にできてこそ、女を選ぶ権利がある!とすら思えるわけで。

哲也さんに逢えないもどかしさを、あたしは降りてきたカミケンにぶつけるしかなかったんだ。



「すいませんでした。」


大袈裟に頭を下げているカミケン。

結局あの後、ゆきみさんと直人さんに清掃ヘルプに入ってもらい、なんとか間に合った。


「PJっぽくなってきたじゃん。トラブル超えてこそ、一人前になっていくからねぇ、みんな。マイコなんて最初の方は毎日ビービー泣いてたよ。自分のせいで沢山の人に迷惑かけたって。」

「平日だったしこれも勉強だと思って、気持ち切り替えて頑張れよな!ケンチさんには俺からも報告するけど、次会った時に自分の口からもちゃんと報告してな。」

「はい。本当にすみませんでした。」


ゆきみさんも直人さんも怒ってないのにあたしが怒れるわけもなく、モヤモヤは収まらない。

ゆきみさんと話す元気もなくスタッフルームのドアを開けたらそこにはバイト前なのか、まだ私服の亜嵐くんがいた。


「亜嵐くんっ!」

「お、朝海!どうした?」

「…デートしたい、亜嵐くんと!」

「え、俺これから映画見ようと思って。」

「なに見るの?あたしも見る!」

「ん〜これ。」

「…げ、今日止まった奴じゃん。」

「あ、すいません…。」


衝立の奥から聞こえたカミケンの声にあたしはイラっとしたんだった。

PREVNEXT