7/1.
『そうだ、実はイタチはタラシだったんだ、しかもあの様子じゃ天然の……』
「はい?」
アタシがボケーッと昨日のことを考えていれば。
隣でハンドルを握る鬼鮫さんが、それを聞き返してくる。
……え、もしかしなくても声に出て、た……!?
「天然タラシがどうとか。」
『ってやっぱりぃ!!すすすすみませんすみません!今のは忘れて、』
「それにしても、あのイタチさんがねぇ。彼に何か言われたんですか?」
『い!?いやはや、そこまで深い意味はないと思いますし……!!』
「まぁ実際、イタチさんが女性をほだすようなことをおっしゃる場合は、社交的な何かでしかありませんから。」
『!で、ですよねー……。』
あまりにも冷静に分析する鬼鮫さんに、アタシは一人昂ぶっているのが恥ずかしくなり。
途端にしゅんと縮こまれば、ごまかすようにシートベルトを引っ掴んだ。
……けど何だったんだろう、しかもあんな唐突に………。
―「夜のnameは一段と綺麗だな。」―
サスケくんも、アタシの知らぬ間にタラシっぽくなってるし。
何々、もしかして最近そういうジョーダンが流行ってるわけ?
「ですが、あなたとイタチさんは社交的な関係ではないのでしょう?」
『え…?』
「少なくとも、ここ数年で出会ったような関係ではないと。あなたがうちはの養女であるというのなら、昔からイタチさんとはそれなりに、親密的な仲だったのでしょう。」
(な、なんか見透かされてる……?)
「社交的でない関係で、そのようなことをおっしゃったのなら……ククッ、そうですか。やはり彼は大物だ。」
『へ、はぁ……。』
一人楽しそうな鬼鮫さんに、アタシは曖昧な返事だけ残す。
しかしその真意を本当の意味で理解できたのは、随分後になってからだった。
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『あ、えーっと……今日はここまでで。今日からアタシ、一人で上まで行きますんで。』
「イタチさんから聞いていますが、くれぐれも迷子になんかならないでくださいよ。」
『あぁ、そこは大丈夫です!記憶力はうちはに来てから随分と鍛えられましたから!』
「あまり挙動不審な行動は慎むように。それと、重役が出入りすることもありますから、そういった方々には極力遭遇しないようにしてください。」
『あ、はい……』
「仮に声をかけられても、下手なことは言わないように。商談の打ち合わせで来ているとだけ答えれば、それで丸く収まります。謙遜と狼狽は違いますからね、あくまで堂々としてください。」
『わ、わわわわかりましたよ!堂々とですね、堂々と……。』
もはや急き立てられるようにして、アタシはいそいそとその場を離れた。
しかし裏口のゲートから建物に入れば、早速難関ポイントに遭遇。
『えーっと、ここにこうしてカードを通して……、』
シャッと手早く通せば、どうやら上手く認証されたみたい。
パカリと扉がスライドし、その後も記憶した道という道を進んでいく。
(ほんとセキュリティのオンパレードだな、息がつまりそう……。)
そうしてたどり着いた、見覚えのあるエレベーターの前。
アタシはもう一枚別のカードと、イタチに教えてもらった暗証番号を打ち込んだ。
すると最上階で灯っていた階層のランプが、次第と下へと下がっていく。
―――12階…8階…5階……3、2、1……チンッ、
『……っ!?へ、い、イタチぃ!!?』
「お疲れ様。今着いたところか?さすがに心配で見に来たんだが、上手くやってるみたいだな。」
扉が開いた瞬間目に飛び込んできた黒は、もちろんイタチ。
だがその予期せぬ登場の仕方に、アタシはもう冷や汗ダラリだ。
『び、びっくりさせないでよ!おお伯父さんが来たかと思って冷や汗ものだよ!』
「言っただろう?あの人は海外に出ているから、よほどのことがない限り帰ってこないし。そのようなことがあればオレの耳にも入るから、nameは何も心配しなくていい。」
『いやいや、それにしたって心臓に悪いって、』
「そんなに驚かせたようならすまない。けど待ちきれなくて。」
『待ちきれないなんて、そんな……って、はい…?』
聞き流しそうになった言葉を寸前で理解し、アタシがぎこちない挙動で彼を見る。
そんな疑心暗鬼な瞳に臆することなく、彼が続ける。
「待ちきれなかったんだ、nameのこと。だから大目に見てくれ。」
『……っ!ま、またそんな冗談言って……だってアタシたち毎日会って、』
「毎日だって足りないくらいだ。それよりほら、早く乗って。」
そうイタチに急かされてしまえば、考えるより先に体が動く。
乗り込んですぐさま扉が閉まれば、二人だけが箱の世界に取り残されたみたいにシンとなる。
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