新イタチ長編 | ナノ
6.














車の窓ガラスに映り込んだ自分の顔が、外の暗闇のおかげでくっきり見える。






「今日は一日すまなかったな。普段の本職に加え、こんな遅くまでnameを働かせるなんて。」

『う、ううん!そんな、アタシが言い出したことだしいいの!気にしないで!』






帰りはもちろん、いつもの助手席にお世話になり。

アタシがマンションに着くのは、何だかんだで夜10時をまわる。






「腹も減ったろう?オレはもう基本この時間に食事をとることはないんだが、さすがにnameには無理をさせたな。」

『いやいや、アタシその、今日はお昼遅めだったんだよね!だからあんまりお腹空いてな、』






ぎゅるるる〜、






『…………。』

「あまり腹に溜まるようなものはないが、カロリーメイトなら。いるか?」






運転中にもかかわらずその袋を開け、平然と中身を差し出され。

アタシはそろそろと中身だけを抜き取れば、顔も上げずにそれを咀嚼した。






(ほんっと好きな人の前でも赤裸々というか、マナーがなってないというか……。)

「まだ週の初めだが、これからは毎日こんな感じの流れになる。すまないが覚悟しておいてくれ。」

『!…っけふ、』

「水なら、ほら。』

『ごふん、いただきます……。』






呑み込むのに苦戦するアタシを察し、イタチがペットボトルのそれを差し出す。しかもちゃんとキャップを取って。

いちいち優しさが光るイタチに小さく頭を下げると、またアタシがそれを受け取った。






(そっか、何か今日が特別みたいな感覚だったけど……。)






朝7時にはいつも通りに送ってもらい、9時〜18時までアタシはアタシで事務をこなす。

ボディガード鬼鮫さんにより、イタチの職場まで15分。そうしてビルの最上階で、イタチと過ごす2〜3時間。






(これから先二週間は、これが日常になるのか……。)






そうして口からペットボトルを離すと、アタシの口内にはほのかなレモンの味が広がるって、あれ……?






『アタシって、今こんなに飲んでたっけ……?』

「あぁ、今はそれしか手持ちがなくてな。既にオレが口をつけてたやつだが、何かマズかったか?」

『ぶふぉ!??』






後出しの衝撃的事実に、またもやアタシの汚い奥義(?)が炸裂する。

水は既に飲み込んでたから惨事には至らなかったけど……あああアタシってばナチュラルにイタチとかかかっ間接キス…!!






「大丈夫かname、何か変なものでも入ってたか?」

『いやいやそんな変なものというよりはむしろご馳走さまですって感じでイヤァア!!』






とアタシが誤爆しているうちに、車が静かに停車する。

よ、良かったぁ、ようやくアタシのマンションだ!はっ早く出よう、これ以上パニクる前に……!






『ごごごごめんねイタチ!こんな時間になってまで送ってくれて!それじゃ!』

「おいname、そんなに慌てるな。いつもより暗い時間だし、人もいないだろうから気を付けてな。」

『はいはい分かって、分かってるって!』

「本当はマンションの最上階まで見送ってやりたいが、さすがに部外者はそこまで入れないしな。」

『え?あぁうん、そこまでしてもらわなくても大丈夫、』

「明日も早いだろうから気を付けて、あと戸締まりはしっかりな。」

『……うん、わかったから。じゃあね、また明日……』






露骨にテンションが駄々下がり、最後は質素な返事で車を降りたアタシ。






(送り迎えするイタチの方が、アタシよりも朝早いのに……。)






自身より負担の少ないアタシのことばっかり気にかける。

それを嬉しいと思う気持ちが半分と、申し訳ないという気持ちが半分。






……早く帰って明日の心配とか、仕事のこととか。

アタシなんかに使う心配で、それらを考える時間を削ることすら惜しまれた。






「name。」

『!え……、』






と、何故かイタチの声がはっきり聞こえる。

見ればイタチはわざわざ車から降りて、アタシのところに駆けてきていた。






『な、何イタチ……まさか、やっぱり無理矢理にでもついてくるって言い出すんじゃ、』

「ほら、忘れ物だ。」






はて、そんなものしてたっけ?とアタシが首をかしげていれば。

イタチが持っているのは、さっき飲ませてもらった飲料水。






それだけでさっきのことが呼び起こされ、ボッと赤面が沸き慌てふためく。






『へ!?いっいやいや何言ってるのイタチぃ!?そもそもコレはイタチのでしょう!?』

「これはさっきあげたんだ、nameに。」

『いやいやいいよ!イタチが持って帰りな……ってそれもまたダブル間接キッスだうわあああ!!』

「前に知人から、段ボール一箱分貰い受けてしまってな。どうせ帰ったらまた大量にある、だからこっちは風呂上がりにでも飲んでくれ。」

『ヒーヒー……そ、そうなの。じゃあ遠慮なく…。』






かなり燃費の悪いハイテンションを納めながら、アタシは恐る恐るキャップの部分をつまみ上げる。

まぁどこからどう見ても遠慮がちなわけだが、うわぁどうしよう、このキャップを空けた先には二人分の唇の熱が……!!






『い、やだやだアタシったらまたそんなしょうもない妄想ばっかり……!!』

「name。」

『ひやっ!?もっもうイタチ、脅かさないでよ!あーもうそろそろ行かなきゃ、イタチも明日寝坊しちゃうかもよ!?なーんて、イタチに限ってそれはないない、』

「夜のnameは一段と綺麗だな。」

『そうそう綺麗だよねアタシなんか、そりゃあ一段とキレイキレイ……え、はい?』






途中からおかしな単語を口走っていることに気づき、アタシが背後の元凶を振り返れば。
























―――マンション側からの灯りで照らされた顔が、その目を細める。






「ドレスアップでもしてたら、もっと綺麗だろうな。」

『……へ…は、え…!?』

「疲れただろう、今日はゆっくり休んでくれ。じゃあおやすみ、また明日。」






そうして引き際はあっさりな彼が、車を旋回して元来た道を走り去っていく。






―「夜のnameは一段と綺麗だな。」―

―「ドレスアップでもしてたら、もっと綺麗だろうな。」―






綺麗だな、綺麗だろうな、綺麗きれいキレイキレイ……へ?
























言い逃げ犯、逃走

『い、いまイタチあたしのこと…!?いっいやいや、きっとあれはアタシの妄想が見せた幻だ幻……それとどうしようこのペットボトル、いっそのこと捨てちゃうか、いやいやせっかくイタチがくれたのに勿体ないし………ッあぁああ誰かアタシに助言をください神様ぁ!!』


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