7/2.
(ど、どういうつもりだろうイタチ……。)
「今日は食べてから来たのか?」
『え……あぁ!うん、ごめんね?アタシだけ早弁?みたいなことして。イタチには悪いと思ったんだけど、またお腹空いちゃうとアレだし、』
「当ててみようか。焼きそばだろう?」
『…え、えぇええ!?な、何でわかったの!!?』
「口の端にソースがついてる。」
『ぐはあっ!!』
だが胸のどぎまぎから数秒もしないうちに、アタシは一転して大ダメージを喰らわされる。
ていうかそれなら鬼鮫さん!あなたの時点で気づいてたなら言ってくれればいいのに、もう……!
その点、イタチは何の気なしにそういうことも言ってくれるから、まぁアタシとしては非常にありがたい。
(ま、まさか歯に青のりもついてるんじゃ……ゾゾゾ…!)
なんて更なる不安を懸念して、アタシが指摘されるまま袖口で拭おうと腕をあげる。
ガシッ、
『へ!?あ、ごめん。や、やっぱりお行儀悪かった?はは……』
当然といえば当然なのだが、すかさずイタチに捕らえらてしまった手首。
だがその肌の接点により、これまた異様に意識し始める脳内事情。
―「夜のnameは一段と綺麗だな。」―
どく、どく、どく……
―「ドレスアップでもしてたら、もっと綺麗だろうな。」―
ずいっ、
『え……』
すると何を思ったのか、突然イタチがその顔を寄せてくる。
間髪入れずに、いきなりアタシの頭部を抱え込んだ。
『ひゃ、い、イタチ!??』
そのままくしゃり、とかき上げられた後頭部は。
イタチの片手一つで、すっぽりと難なく覆われている。
―――何よりそのまっすぐな視線が、数ミリたがわず自分に向いているという奇跡。
……!!イタチ、近……―――
「そんなやり方じゃ駄目だ。」
『……っ…え、はい…!?』
「それだと服が汚れるだろう?拭くならこっち。」
『ん…んあ……!?』
そう言って取り出されたハンカチで、口の端を少し強めに一拭きされて。その手の拘束は、いとも簡単に解かれた。
突然の解放感にふらりと前によろめくと、彼はアタシの額を手のひらで軽く押し返す。
「大丈夫か?」
『…え…あっいや、その……大丈、夫…』
「だけど綺麗に取れてるぞ。良かったな。」
その“綺麗”という言葉に、思わずビクリと反応してしまうアタシ。
懲りずにまた昨日の出来事が鮮明になる自分がいる。
「けど、nameは本当にそういう食べ物が好きなんだな。この前実家に帰ったときも、ははっ…!オレがあらかた切ってた野菜が、お好み焼きになってたしな、あはは……!」
どく、どく、どく……
「あのときはもう可笑しくて可笑しくて……nameはいつも面白いことをしてくれて飽きないな。まぁ料理の腕は悪くないから、今度また別の料理も作ってもらえれば……あぁ、暗に弁当を作れとか、そういった意味じゃなくてな。」
ばく、ばく、ばく……
「ただでさえオレに時間を裂いてる上に、これ以上nameの負担を増やすわけにはいかないだろうし。」
普段は必要以上のことを話さないイタチがお喋りに聞こえるほど。
アタシは黙りこくって、自分の心音だけを聞いていた。
―――どくどくどく、ばくばくばく、
「name、聞いてるか?」
イタチが不思議そうに首を傾けても、アタシは何の反応も示せない。
(……そもそも、イタチは何でこんなことをする気になったの…?)
―「二週間だ。」―
『ねぇ、イタチ……。』
恋人でいてほしいってことは。
アタシに常日頃から、そういう態度でいてほしいってことじゃないの?
「何だ、name。」
それってつまり、イタチはアタシのこと…………
『……イタチ。お節介なようだけど、一日ちゃんと三食食べてる?』
「いや。」
『…じゃあ、何食?』
「一食だな。」
『っへ、はい!?』
「朝はいつもコーヒーで済ませるし、昼過ぎになってからようやく昼食で、仕事が終われば帰って寝るだけだからな。」
『か、間食とかは……』
「してないな。nameはしっかり三食食べるんだぞ。」
『ってイタチに言われたくないよ!!』
なんて、そんなツッコミどころのある談笑を交わす。
イタチもイタチで、そんなアタシの的確なセリフにまた可笑しそうに笑っている。
―――うん……きっとそこには、“好意”なんてないんだ。
だってイタチはいつだって、その挙動や仕草は殺人レベル。
―「まぁ実際、イタチさんが女性をほだすようなことをおっしゃる場合は、社交的な何かでしかありませんから。」―
それに、今ある関係のせいで薄らいではいるが……イタチはアタシの、監視役。
イタチがアタシに良くしてくれるのは、当たり前だ。
―――チンッ、
そうして最上階に着いた合図と共に……アタシの中に芽生えた感情は、気泡のように消えてなくなった。
きっと彼は恋なんじゃない、(今度イタチに肉じゃがでも作って来ようかな……。)
「タッパはちゃんと洗って返すからな。」
『……え、なに読心術……?』
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