30/1.
「name、一時帰宅を許可してやる。」
『……へ…?』
唐突だ。いつにも増して唐突だった。
「何だその反応は。それとももはや俺からは離れがたくなったか?」
『えっいやその……何で今さら、』
「何、たまにはお前にも休養を与えてやろうと思っただけだ。」
少し楽しそうに話す伯父は、車のキーを取り出しガチャリとロックを解除する。
アタシも促されるまま乗り込めば、夕食も終えた午後8時。
もはや懐かしささえ覚えるその帰路を、駆け抜けるように走り出した。
(どういう気の変わりようだろう……。)
「どういう風の吹き回しか、とまぁそんなとこか?」
『ひぇ、いや!べっ別に、』
「俺の方でも煮詰まっている案件があってな。さすがに貴様一人には構っていられなくなった、というのもあるが。」
『は、はぁ……。』
「それにしても、貴様は相変わらず人一倍わかりやすい顔をするな。そういうところは本当に俺の気に入りなんだが。」
本当に機嫌がいいようだった。
このまま当たり障りなく接していれば、アタシとしても気持ちよく帰路に着けることだろう。
(久しぶりだなぁ、帰ったらまず何しよう……。)
ここのところ仕事以外のときは伯父と社長室で缶詰め状態だったから。
どんな意図があるにせよ、自分の部屋に帰れるなんてまさに夢のようだった。
「そうだ、貴様に一つ伝えておかねばと思っていたが。」
『あ、はい……何でしょう?』
「と、その前に。イタチとキスをしたそうだな。」
『!??』
ガタタッ、
あからさまに動揺するアタシを、予想通りの反応と言わんばかりに見つめてくる伯父。
「なに、別に怒っているわけじゃない。ただの興味本意だ。」
『へ、いや……!』
「どうだった、あやつの口づけは。」
『ど、どうって……!』
「好きか?」
ぴたり。そう聞かれて、目が離せなくなる。
「好きか、name。イタチのことが、もちろん一人の異性として。」
『…………。』
……言って、いいだろうか。
そこまで知っていて伯父が何も咎めないのなら、いっそのことあの二週間の出来事も。
話してしまえば、楽になるだろうか。
―「一人でシたときは気持ち良かったか。」―
そうすれば、あの痴女扱いされてきた疑惑も晴れて、少しはまともな目で見てもらえるんじゃ……
『伯父さん……アタシ……』
「ん……?」
『伯父さんとしか、してないよ……!?』
―――いや、そんなはずない。
伯父はアタシを試してるのかもしれない。
『あっ、アタシ、キスなんて伯父さん相手にしかしたことないよ?イタチは何も関係ないよ、だって彼はアタシの監視役だもの……!』
近頃アタシが何かにつけてイタチと会いたがっているから、伯父の方でもそれを不信がっているのかもしれない。
だってイタチとキスしたかなんて、そんな本人たちにしか分からないようなこと、
「……そうか。」
『うん…………え…?』
だがどうしたことか、伯父は薄暗い路上で一旦車を停車させると。
そのままエンジン音もなくなり、ライトも何も落とされた。
……もはや悪い予感しかせず、嫌な汗がアタシを伝う。
すると次にはシートベルトを外し、体をこちらに向け助手席のアタシに迫り来る伯父。
「……嘘が下手だなname。」
『え、やっ……!何して、』
「なぁに、貴様が少しでも素直になれるよう手伝ってやるだけだ。」
闇のなかにぼんやり浮かぶ伯父の顔が接近し、手探るようにアタシに触れる。
その目は、完全にスイッチが入ってしまっていた。
『……!!伯父さん、ここ車…、』
「構わん。むしろそれくらいが今の貴様には丁度いい。」
そう言うと同時に、カチッと何かが外れる音。
すると胸元にあったアタシの手に、シートベルトの金具が当たった。
(……!伯父さんが、外したんだ…。)
アタシは咄嗟にその金具部分を掴むと、引き戻すように体に巻きつけた。
……まるでそれが、素肌を守る最後の一枚のように思われて。
「フッ……name、なかなか面白いことをするな。」
『あ、やぁ……!!』
「そんなもので一体どう身を守ろうと言うんだ。ん…?」
するとそれすらも遊戯として楽しむように、アタシの胸元のシートベルトを人差し指と中指で挟み。
そのまま弱い力で、滑らしたり引っ張ったりしてみせる。
「貴様という奴は本当に面白い。こうも毎回違う反応をされては、こちらも尚のこと刺激されてたまらない。」
『…!そ、そんなんじゃ、』
「だがまぁ、そろそろ前座も飽きてきたな。この妙な物もろとも、その手をどけて貰おう。」
ガタンッ!!
『!!?』
すると突然、助手席の背もたれが盛大に倒された。
もちろんアタシも背後に倒れ込み、シートベルトはホルダーに吸い込まれ。
すかさず助手席側に移り、上から覆い被さってきた伯父。
「フフ…なかなかいい眺めだな、name。いっそのこと、このまま挿れてしまおうか。」
『い……!?』
するとアタシの膝裏に伯父の手が挟み込まれ、そのまま折り曲げるように片足だけ倒されてしまう。
今日も今日とて伯父さん好みのスカートだったアタシは、その片足部分だけ太ももが大きく露になっていた。
『や、やめて伯父さん、これ以上は…』
「また相も変わらず凄いな、この足の柔軟さは。幼少から新体操をやらせた甲斐があった…なっ、」
『ひああ!??』
すると、片足をそのまま伯父の肩に担がれた。
そこから若干体を押し上げられれば、上体が不安定に揺れる。
痛くはない……ただ、恐い。
伯父が次に何をしでかすのか、その先を知るのが堪らなく恐いのだ。
……ちゅう…っ
『いっ…!?』
更には突然走った痛みに、アタシが目を見開けば。
伯父はアタシの太ももの、その内側にキスマークをつけていた。
パチリと、下から見上げるような伯父と目が合って。
―――すぅ…と細くなるその眼光に、思わずゾワリ。
チクリ、
『あ…やあっ…!』
再び内太ももの別の箇所に吸い付かれ。
段々と下へとさがる伯父の唇が、連続して赤い痕跡を残しつつ、徐々に足の付け根に侵食する。
『イヤ…ダメ…ッだって、ばぁ…!』
アタシは顔を真っ赤にしながら、不可抗力にも巻くれ上がったスカートを押さえるように秘所を隠した。
―――すると熱い吐息が離れ、対象がむくりと起き上がる。
『っ…!』
「nameは本当に俺の扱いが巧いな。俺は焦らすのも好きだが……焦らされるのも、大好きだ。」
ガシッ、
『!!やっ、あっ!!』
するとアタシの両手首はものの見事に絡めとられ、ガッチリ頭上に縫い付けられる。
アタシがそれを振りほどかんと身をよじっても、それすら伯父の目を楽しませるばかり。
『あ、だめぇ伯父さんっ…!』
「そうされれば尚のこと燃える男のさがを、知らずとその身に心得ているとはな。」
『そんな、あぁ……お願いだから、あっ!も、もうふざけるのはやめて、』
「ふざける?……まったく、お前は今さら何を言う。」
まだ何をされたわけでもないのに息も絶え絶えなアタシを見て、またその目が妖しく笑う。
「俺はいつだってお前に本気だ、name。」
……そんなことを、冗談なんかこれっぽっちも感じさせない顔で言う伯父に。
アタシはもう、観念せざるを得なかった。
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