29.
「何を考えているんです、あなたは。」
場所はここ、うちはコーポレーション某待合室にて。
ソファに深く腰かけていたうちはマダラは、呼び出されたわけでもない突然の来訪者にも至極冷静な態度で切り返す。
「ふっ…ノックもなしに入ってきて言うことがそれかイタチ?」
「nameは今、彼女は今どうしているんですか。」
「貴様がそれを知ってどうする?」
「オレは彼女の監視役です。彼女の消息が途絶えてしまっては、nameから目を離さないよう言いつけられた本分も果たせないかと。」
「フン、さも最もらしいことを言いおって。」
一連のやり取りをする合間にも、マダラはその主をチラリとだけ見る。
鼻で笑った先の男、同族のうちはイタチの脳裏には、昨日の鬼鮫とのやりとりが何度も巡っていた。
―「nameさんですか?そういえば先日見ましたよ、マダラさんと本社までご同行でしたので。」―
「っ……彼女は、今……」
―「ただあれはまるで、かなり度が過ぎる寵愛を受けている光景のようにも思われましたかねぇ。まぁ私個人の見解ですが……、」―
そんな脳内再生が、うちはマダラのカタリとペンを置く動作で遮られる。
「まぁいいだろう。これも良い機会だ、貴様とはよくよく話しをつけたいと思っていたところだ。」
「…………。」
「本音の話をしようかイタチ……お互いにな。」
そう前置きしたマダラは、その両手を組み合わせては改めて視線を据え置いた。
「知っての通り、nameは幼少の頃より俺が直々に見初(みそ)めた女だ。はじめは捨てるつもりだった、思い通りにいかなければな。」
「…………。」
「だが奴を見ているうちに、気が変わった。理想でなければ、己で理想に近づければいいだけのこと。ただ当時nameの奴はまだ5才、幼女などという面倒なものを見てやる義理はないんでな。俺が貴様に持ちかけた誘い話、あながち悪くもなかっただろう。」
誘い話……それは忘れもしない、nameが忽然と姿を消した日のこと。
―「あぁそれと、伝言を一つ頼まれていたな。」―
―「!nameから、ですか……?」―
―「いや、うちはマダラからだ。」―
当時、実父であるフガクから間接的に告げられた甘い言葉が、それだった。
「“この先もnameの面倒を見る気はないか”だったな。何せnameには、俺としては厄介な分野が数多くある、だからその辺りを相手してやれる人間が必要だった。貴様のような堅物には適任だったぞイタチ。」
あくまでnameを厄介者扱いするその言動に、イタチの拳が静かに固くなる。
「……nameはモノじゃありません。」
「当然だ。俺の大切な愛娘だからな。」
「では何故大切なものを躊躇いもなく傷付けるのですか……?分からないはずはないでしょう、あなたという存在に、あんなにもnameは縛られている。」
「貴様と同じで、か……?」
イタチは当然、言葉に詰まる。
相手はうちはコーポレーションの社長だ、その言葉巧みさに気後れするのも無理はない。
「あぁ、そういえば。」
すると今度はさも余裕そうな表情で、次にはこんなことを切り出してくる。
「nameにキスの仕方を教えたのはお前かイタチ。」
「!!」
「ふふっ、図星か。道理で……だがわかっているだろう。貴様にはそれ以上のことなど出来やしない。」
そう自信ありげに立ち上がれば、立ち尽くすイタチの耳元でサラリと突く。
「nameを、あやつを守りたいのだろう?貴様は。」
「……何のことです?」
「ほう、あくまでシラを切る気か。ならば試してみるか?」
「…………何を、」
「今夜だ。今夜nameを部屋に帰す。イタチ、貴様は大人しくnameが帰宅するのを待ち伏せるがいい。」
さすがのイタチも驚きからか、その目にはっきりとマダラを映す。
だが当の主は、さも意外そうに肩をすくめてみせるだけ。
「何をうろたえる?貴様ならいつどこでnameと落ち合おうと関係ないはずだ。部屋の鍵ならスペアを渡しておく。nameも貴様に会いたがっているからな、さぞかし歓迎されるだろう……おっと会議の時間だ、俺はもう行く。」
そうして腕の時計を確認する素振りをしたマダラは、その手をイタチの肩に置く。
そこから漂う威圧―――目には見えない空気が、ザワリと蠢いた。
「“信頼”しているぞ、イタチ。」
「っ……、」
わざとらしくそんなセリフを残し、大手うちはコーポレーション社長は部屋を後にした。
仕込まれた密会、そこにどんな意図があるのか、それともただの気まぐれか。
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