24/1.
「10分くれてやる。身支度したら降りてこい。」
どうやら伯父は今、ここのマンションの下に来ているらしく。
アタシが階下まで降りていけば、漆黒のベンツがそこを陣取っていた。
「遅い。」
『…………。』
当然だ。さっきの会話から30分も経っている。
それでもアタシが黙りこくっていれば、助手席の扉がひとりでに開く。
「乗れ。早くしろ。」
『………っ…、』
運転席に居座ったままの伯父は、正面を見据え目も合わせない。
なのにそこにある威圧感だけで……アタシの体は凍りついたまま、動かなかった。
「……この期に及んで、まだこの俺を怒らせる気か。」
『ッ…!!』
その言葉を聞いてすぐ、アタシの体は反射的にシートに飛び乗った。
助手席に収まるアタシを確認するや否や、車は即座に発進する。
「シートベルトくらい締めろ。俺をくだらん取り締まりで警察どもに突き出したいか。」
『す、すみませんっ…すぐに……、』
だがこの狭い空間で、直に感じる威圧を前に、アタシの手の震えは止まらない。
シートベルトを引き出すこともままならず焦っていれば、横から咄嗟に伸びてくる伯父の手。
……アタシの右手ごとシートベルトを引っ付かんだその手は、器用にアタシの胸の前を通り。
片手でハンドル操作をしたまま、いとも簡単に装着させてみせた。
「チンタラするな。」
『……は、い…。』
伯父の手は離れたが、一向にその存在には慣れずに萎縮する。
そうして車はある場所へと、見慣れた道のりを一直線に走っていった。
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「降りろ。」
荒々しく扉が開かれ、アタシが降りればその建物を見上げる。
……そこは伯父の職場、うちはコーポレーション本部だった。
「行くぞ。ついてこい。」
伯父はアタシがはぐれないよう、キツいくらいの力で腕を引いていく。
アタシは高いヒールで転びそうになりながらも、何とかそのペースを保つ。
……本来なら伯父に連れられて、この職場に来ること自体初めてなのだが。
もちろんアタシは、その部屋に行くまでの順路を知っていた。
―「nameが車から出たあとは自力でここまで来れるようにしておこうと思って。」―
どの地点でセキュリティカードを認証するのかも。
―「このエレベーターから目的の部屋までは直通で行ける。」―
伯父の部屋直通のエレベーターも……そのために必要な暗証番号も。
例えアタシが目をつぶっていても、今の伯父と全く同じ動作が出来ただろう。
―――チンッ、
もはや聞き慣れた、その高級感あふれる音で扉が開く。
唯一違うとすれば、目に映るのは夜景ではなく、まだ明るい街並みだということ。
「座れ。」
そう、このソファも……彼と仕事の合間にくつろいだ場所。
すると伯父は、片手で無理矢理に肩を掴んでくると、アタシの体を自分の方へと向ける。
がばりと、正面からアタシの肩に寄りかかった。
「……風呂に入ったな。」
『!!え…!』
「つくづく俺の扱いには長けているようだな、name……昼間っからこんな匂いをされては、俺も怒る気力が失せてしまったぞ。」
『や……!』
下からまさぐる両の手首を押さえ、アタシは上半身をぐいと後方に引く。
ずるりと下がった伯父の顔が、アタシの胸元から覗き上げるようにニヤリと笑う。
―――その顔には幼少期に見たものと変わらない……顔半分にも及ぶ、消えない傷が残っていた。
「だがこんな真っ昼間から風呂に入るとは、なかなか不規則な生活をしているようだなname。それとも、今回がたまたま、か…?」
アタシはそれが、あらゆる分野で完璧で、神にも匹敵するであろう伯父の存在を。
唯一不完全な、人間らしくさせている部位に思えた。
「何か普段では起こり得ない、そんなイベントにでも出くわしたか。」
『いや、その……』
「昨晩は、俺の呼び掛けにも応じられない深い事情があった、と……?」
『そ、そんな大層なことは、』
「ならば俺の目の届かないところで、一体何をしていたname。」
『あっ…アタシは何も……!』
「嘘をつけ。お前はいつからそんな悪い子になった。悪い子にはやはり、相応のお仕置きが必要か……?」
アタシはもう恐くなって、顔を伯父とは反対のほうに反らした。
それでも伯父はお構いなしで、アタシの太ももをなぜるように触れてくる。
『お…伯父さんやめて、』
「やめて欲しくば正直に白状しろ。」
『ちょ、ちょっと急に仕事が入って……き、昨日は遅くまでそれが長引いたから、』
「先方には既に確認済みだ。俺とnameが会うその日には、何がなんでも仕事を入れてやるなとも言ってある。」
ギクリとした。この先待ち受ける仕打ちが、目に浮かぶほど明らかだったから。
そんなアタシへ更に詰め寄ると……その口が、耳の鼓膜に突きつける。
「嘘をついたな、name……お仕置き決行だ。」
『ッ……い…!?』
ガッと伯父の手がアタシの顔を掴んで覆った。
それと同時に突っ込まれたのは、口内を無遠慮に掻き回す伯父の親指。
『いあっ…は……!』
「はは……自分が今どんな表情をしているのか、見せてやりたいものだな。」
『や…あぁ…やめっ、』
「さぁ、その可愛い口を上手に動かしてみろname……俺の天使、俺の愛する愛娘よ。」
自分の唾液で顔を汚すアタシに、伯父は背徳的な笑みを浮かべている。
アタシはこれ以上指の侵入を許さないよう、歯茎を噛み締め抵抗した。
だが今度はゆるゆると閉じた歯茎を往復し始める、伯父のゴツゴツした親指に……そこから漏れるヤラシイ音に、ゾクリとした。
(どうしようどうしようどうしよう……何か考えなくちゃ、何か……!!)
だが、もはや白状させる気などないように、伯父の行為はどんどんエスカレートしていく。
ついにはそれが身体中への愛撫に変わり、手首を掴まれれば布越しのイチモツに触れさせた。
『!!や、やだっ!あ……!』
「どうした、俺の熱量がまだ伝わらんのか。俺がどれほどお前を愛しているか、今すぐその身に教えてやりたいのは山々だが、」
『やっめ……!!』
「言ってしまえ、name……そうすれば後が楽だぞ。今ここで、俺に嘘偽りなく全てを洗い晒し話せたら、すぐにでもお前を最高に気持ちよくしてやる。どうだ……?」
その低音でかすれた声に、いちいち体を震わす自分が憎らしい。
でも、だからといって言えるわけがない。
あのとき伯父より優先して、その目を盗んで……あれだけの時間をイタチと過ごしていたなんて……。
―「name。」―
『っ……!!』
―「いつもオレの勝手に付き合ってくれて、本当にありがとう。」―
咄嗟に浮かんだ彼の記憶に、アタシは一瞬で我に帰る。
バッと伯父を突き放した。
『……し、しらないっ…!』
「ほう……自分が昨晩、何をしていたのかも思い出せんのか。」
『知らないものは、知らないの……!!』
「…………。」
下手な言い訳よりも、たちが悪い。
それでもアタシがここで踏ん張らないと、イタチに火種が降りかかってしまう。それだけは、どうしても回避したくて。
すると伯父は、一旦その身を起こした。かと思えば………
―――キュ…
『っんはぁ!!』
つままれた……その指が布越しから、的確に胸の突起を。
ビクン、と体が跳ね上がったことでソファがきしみ、刺激の余韻が体に残る。
このとき既にアタシの体は、自分が思っていた以上にくたびれていた。
「焦らすなname、正直俺もあまり持たん……まぁ、お前が話さずとも、俺にはいくらでも調べられようがな。」
『……え……』
「俺の情報網を甘く見るな。この近辺で起きたことなら、尚更俺の庭……お前が言わないつもりなら、すぐにでも部下に調べさせる。」
そんなアタシの抵抗も虚しく、逃げ場のない通告を突き付けられ。
更なる伯父のセリフによって、アタシはじわじわと追い詰められていく。
「それほどまでに、価値のあることなのか……?」
『っ!あ…あぁ…、』
「お前の守りたい秘密が、そうまでしてやるほど尊いのなら……暴いてやるさ、徹底的にな。」
駄目だ、駄目だ、それだけは……!!
イタチ、アタシどうしたら……、
―「これからは、いつでもオレが駆けつける。」―
イタチ、アタシもう…………
『ひ、一人で…シてたの……。』
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