5.
放課後。
チャリ通のオイラと旦那は、部活を終えれば同じ方角に向かっていた。
「今日の晩飯何だろうな、nameの奴。」
「つーか旦那は家反対方向なのに、性懲りもなくよく来るよな。うん。」
「食費代浮くし、あいつ飯だけは作んの上手いんだよ。」
そう言う旦那は片手でバランスをとりながら、もう片方で部活で疲れた肩をほぐしている。
今回もそう―――旦那は普段家に両親がいないため、よくオイラと二人でnameの飯を食いに行くのだ。
「まぁnameん家の両親、いつも帰り遅いしな。あいつが晩飯作るしかねぇもんだから、自然と料理も上手くなったんだろ、うん。」
「まぁ事実上一人暮らししてるオレにとっちゃ、まさにnameの存在は打ってつけってわけだ。けどどういうわけか、オレは週1ペースでしか奴の飯を食いに行けねぇんだよなぁデイダラ。」
「…………。」
「何の口実も無しにnameん家に上がれねぇテメーのせいだよ。今日はなんだっけか?“明日の授業で使うプリントの答え合わせ”だったか?」
「…………。」
「オレが一人でnameん家行くわけにもいかねぇしなぁ。こっちだってテメーの見苦しい嫉妬なんざ見たくねぇんだよ。」
……そう。散々幼馴染みと公言してはいるが、まずオイラとnameは登下校が別々である。
あいにく部活をするオイラと帰宅部のnameとじゃあ、テスト期間くらいしか一緒に帰るきっかけもない。
いくら幼馴染みだからといって、理由もなく後からノコノコとnameん家に上がり、その中を我が物顔で闊歩しようなんて。
オイラには到底出来っこない。
「ハァ……いい加減お前ら付き合っちまえ。そんでオレが毎日のようにnameの飯にありつけるようにしろ。」
「結局自分のためかよ!ていうかそれ、何か飯目的のためにnameを利用してるみたいだろ、うん!」
「そう思ってる時点でテメーはnameにベタ惚れなんだよ。nameを利用することに後ろめたさを感じてるっつうのは、単にnameが好きだっつう自己主張だ。んなノロケ話なら他所でやれ粘土野郎。」
「の、ノロケてねぇし!」
散々ダメ出しを喰らうオイラだが.現状そうそう上手く事が運ばないのはオイラも旦那もわかりきっている。
何せオイラとnameがお互いに求める恋愛観は“甘えてほしい”の一点張りなのだ。
―「お前いっつもオイラを振り回してばっかだろ、うん!少しはこう……甘えてくるとか…?」―
―『だってアタシはデイダラに甘えて欲しいもん。』―
相変わらずnameの奴はガキ思考だし、そのくせ世話焼きだし。
けどオイラだって、好きな女相手に甘えるなんて……誰がそんなガキの遊び、してやるもんか。
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そうこうしてる間にnameの家まで来れば、典型的なインターホンを押す。
が、いつまで経っても返事がないので、そのまま二人で玄関を上がることに。
『♪エービーシー続かない!そんなんじゃダメじゃない!だって心の奥は違うんじゃな〜い♪』
「「…………。」」
『♪アタシの青春そんなもんじゃないっ!アツく奥で果てたいよぉ〜!♪』
何やってんだこの馬鹿は。
台所に行けば、スピーカーからのボリュームは全開。
更にはエプロンもつけず、くたびれた私服でアホみたいに躍りながら料理をするnameが映れば、オイラはその場で頭を抱えた。
「絶対歌詞の意味わかってねぇな、nameの奴。」
「〜〜………っ!!」
そう呟く旦那にようやく突き動かされ。
未だにオイラたちの訪問に気づいていないその後ろ姿に、オイラはズンズン歩み寄った。
『♪あたしイケナイ太陽ぉ〜ッ!ってイデデデ!!何々!?髪の毛が重力に逆らうように引っぱられるよ!?』
「ナニヤッテンダ、オ・マ・エ・ハ!」
『わっ!デイダラ!?いつの間に!?それにサソリまで!!』
「その卑猥な歌とっとと止めろ!!あと踊りながら料理すんなって、いつも言ってんだろ!!うん!!」
『えー、だって楽しいんだもん。リズムにノりながらお料理するのって。』
オイラがその髪を放せば、途端にnameが理由付けをする。
うん、まったく同感できない。
「そうやって毎度毎度ヤケドしてんのはどこのどいつだ!ったく、ただでさえ鈍いってのに、」
『あ、間奏終わりだ。♪交わすコト〜バの記憶遠くぅ、』
「だから歌うなっつってんだろ!」
『だってあと残ってるのサビだけだもん!いいでしょ?あとちょっとだけ!』
「そのちょっとが駄目なんだって歌詞的にも!いいからもうやめろ!うん!」
『ここまで来て焦らされるなんてやだぁッ!お願い、最後までいかせてよデイダラっ!』
「おいおいデイダラ、ここまでnameがおねだりしてんだったら最後までイかせてやれ。そんで責任もって中出ししろ。」
「こんなときに冗談よせよ旦那っ!!」
『サソリ、なに“中出し”って?』
「あぁ?」
「言〜う〜なぁ〜!!」
旦那が変な知識を教え込む前に、すかさずオイラはnameの耳を両側から押さえ込んだ。
旦那は頭もいいし、常識人だが……悪ノリをさせたら恐ろしく天下一でもある。
そんなオイラの気苦労も知らず、nameは押さえつけられている頭のまま、一人楽しげにキャッキャとはしゃぐ始末。
つうかお前も無意識とはいえ、何エロいこと言ってんだよ馬鹿!
「んなことより、今日の晩飯は何だname。」
「散々煽っといて切り替え早ぇよ旦那……。」
『えへへ〜、今日はオムライスですよ〜!今回のは特に自信作!』
そうニコニコ顔で言うnameは、いかにも自信ありげなようで。
オイラたちを席につかせれば、スリッパをパタパタいわせながら準備に取りかかる。
(……ん?オムライス…?)
だがそこでオイラは、何か重要なことを忘れているような気がした。
いや、nameは料理だけはかなりハイスペックなため、そっち方面での心配事はないはずなのだが……。
オイラがそうこう思考させているうちにも、nameは手際よくスプーンとフォークを並べていく。
そうして体をくるくる回転させながらもったいぶるようにお披露目されたそれを見て、オイラはようやく思い出した。
『ジャーン!やっぱりオムライスの醍醐味はケチャップでしょ!どう?可愛いでしょ?ちなみに二人のはお魚さんでーす!』
「「…………。」」
―――あぁ、そうだった……nameの奴。
芸術性は、皆無である。
土台であるオムライス自体がしっかりしているだけに、その上にケチャップで描かれた怪物のおぞましさたるや、形容しがたいものだった。
「……name、お前下手くそすぎ。」
『何を言うかねデイダラくん、どこからどう見たってアートじゃないか!特にこのクリクリのおめめなんか。』
「その目が特にグロいっての!かろうじて魚だとしても、無惨に腸えぐり出されてんだろコレ!アートなめんな!うん!」
「おいケチャップ貸せ。」
ようやく旦那が沈黙を破り、オイラたちの会話に参戦したのもつかの間。
そうしてnameの手から乱暴にケチャップを奪い、何をするのかと思えば。
まだまっさらなnameの分のオムライスに、躊躇なく“死ね”と書き殴った。
『あぁー!ひどいよサソリ!アタシのだけこんなダイイングメッセージ風にするなんて!』
「だったら出来もしねぇことハナからすんじゃねぇよ。何だこの無様な醜態、生き物ですらねぇ。」
『何よそれっ!!せっかく二人のために頑張って作ったのにぃ!ひどいひどいひどい!!もうオムライスなんか食べたくない!!えいっ!勝手にしろ!!』
「…………。」
そう言って備え付けのパセリをサソリの旦那に投げつければ、nameは後ろ向きに椅子に跨がりプイとそっぽを向いてしまう。
……もはやそれが場の空気を濁すだけの置物と化せば。
その対処に困った旦那が眉間に更なるシワを寄せ、横のオイラに口パクする。
―――「ナントカシロ」……だと。
(ハァ、もう何やってんだよ旦那。)
(たかがケチャップごときで拗ねるとか思わねぇだろ普通。どこに怒りのスイッチ入る要素あったよ。)
(せっかく親の似顔絵描いたのに、それをビリビリに破かれたガキはそりゃ不機嫌になんだろ?それと同じだって。旦那みたいに頭のいい奴にはわかんねぇ心理だろうけどよ、うん。)
(頭がいいことで馬鹿にされるとか、心外すぎんだろ。)
そうやってオイラたちが小声で情報交換する間も、例の置物は一向にふて腐れる一方。
まぁだがこのような修羅場(?)は、別に今回がはじめてではない。
そんな厄介者状態のnameの対処は、幼馴染みのオイラが一番よく知っている。
「……あぁもう、やりゃあいいんだろやりゃあ。」
そう躍起になってスプーンをとったオイラは、その堂々たる“死ね”の二文字を丁寧に引き伸ばしていく。
そうしてケチャップを手に取り、再びその上から上書きしてやった。
「おいname、こっち向けって、うん。」
『……!』
オイラが完成されたそれを差し出せば、何てわかりやすい。
途端にnameの瞳がキラキラ輝き出す。
「ほら、これならいいだろ。」
『わぁ、やった!ニャンちゃんだぁ!かわいい〜!デイダラありがとう!』
「……単純すぎんだろnameの奴。」
「まぁ、ざっとこんなもんだって、うん。」
オイラしか知らないnameのツボ。それがちょっぴり誇らしい。
こんな些細な時間を共有し合えるのも、幼馴染みである今だからこその特権かもな、うん。
取扱い、習得済み「テメーはアホか。何でそこが67xy+9x-103yになってんだよ。そこの計算式明らかにおかしいだろうが。」
『うわぁ、ホントだ!サソリってばデイダラに聞くよりよっぽど頼りになるね!』
(ってもう打ち解けてるし。オイラよりよっぽどご機嫌とり上手いじゃねぇかよ旦那の奴……。)
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