デイダラ長編 | ナノ
6/1.














『デイダラァアアア!!』






……静かだった昼休みが、妙な雄叫びに支配された。



どこから全力疾走してきたのか、だがいつになく顔面蒼白なnameは、ガシッと勢い任せにオイラの襟首を掴んでくる。






『た、たいへん!たいへんなの!あたアタシ……!』

「落ち着けって。まずこの体勢は何の意味があんだよ、うん。」

『コレハ今ノ気持チノ現レデス!』

「どうせまた箸忘れたとか、」

『忘れてないよ、ほら!昨日から洗ってないけど!』

「……じゃなきゃ弁当のおかず用とか言って、学校の鉢植えに無断で植えてたミニトマト?あれが知らぬ間に収穫されちまったとか、そういう下らないアレだろ?」

『下らなくなんかないっ!トマトは明日収穫予定……って、ちがうの!そんなことよりアタシ…ふ…ふ………、』

「…………ふ?」






一人で勝手に深刻そうに、オイラを見上げて顔を接近させてくるname。






『ふ、太った……!』

「…………。」






……ようやく人の言葉を成したその一言に、オイラの目線は自然と下へさがる。






だがもちろんnameの腹回りは、本人が言うほど気にはならない。

そもそも元からnameは太っていない、というかチビなのだ。






「別にいつもと大して変わんねぇだろ、うん。つうかそれをオイラに報告してどうしたいんだよ。」

『だってねだってね!さっきトビくんにハグしたら何て言われたと思う!?「nameちゃん抱き心地良くなったっスねぇ〜」だって!もうびっくりして咄嗟にバッてしてドタタタッて行ってすぐさま保健室の体重計乗っかったらどうだったと思う!?さながらバッターボックスに立った気分だったけどさ!もう駄目!バッターアウトォ!』

「…………。」






もはや後半はよくわからないのでスルーするとして。

とりあえずトビの奴は、次会ったとき爆発してやろうと思う。






というか何で“結婚したい”とか言ってる対象に向かって、そういうデリケートなこと言うんだよ。

普通はそういう奴にこそ知られたくないもんなんじゃないのか?女って。






『お願いデイダラ!アタシのダイエットに協力して!』

「…………。」






だがこうしてnameの奴がオイラを頼ってくるのも珍しい。



そんな気の迷いも相まって、オイラはnameのダイエットに協力することになった。
























---------------






まず朝。

オイラが指定された通りnameの家に顔を出せば。






『えっほ、えっほ。おはようデイダラ!アタシの荷物よろしく!』






そう言ってオイラのチャリかごに、遠慮なくそれを押し込むname。

その足は目障りなくらい、バタバタと忙しなく足踏みしている。






『やっぱりダイエットといえば運動しなきゃだよね!というわけで。さぁ、遠慮しないでどんどん漕いでいってくれたまえ!』

「本気で一人走って登校する気かよ。学校まで歩きでも30分はかかんだろ、うん。」

『えっほ!協力っ、してくれるって…言ったのは、えっほ!デイダラっ、でしょ?お…お情け無用ぅ!さぁ…はっ早く早く!』






……早くも息継ぎが怪しくなっているが。

それでもnameがしつこく急かすので、オイラは半ば諦めたようにペダルに力を込めた。
























---------------






『ゼーハーゼーハー……し、死ぬ…!アタシ死んじゃうデイダラ……!』

「だから言わんこっちゃねぇ、うん。」






膝に手をついて辛うじて立っているnameは、もはや肩で息をしている状態だ。

そんなnameを引き連れ、何とか下駄箱までたどり着いたものの。






「あ、先輩おはようございまぁす!珍しいっスねぇ、こんな時間に鉢合わせるなんて。」

「…………。」






どうやらトビの奴の登校時間と被ってしまったらしい。クソッ、ついてねぇ……。






「あっれぇ?今日はnameちゃんと一緒なんスねぇ。まさか先輩、nameちゃんとニケツしちゃった感じっスか?キャー先輩ってば、そこに痺れる、憧れるぅ!」

「そのグルグル仮面の穴から目潰ししてやろうか、トビ。」

「ちょ、冗談ですってば冗談!まったくもう、先輩ったらすぐ本気にしちゃって、ボクちゃん恐ぁい!あぁnameちゅあん!やっぱり君だけが僕の心の癒し!」






そうしてここで、いつもの如くその両手を広げてnameに駆け寄るトビ。

いつもなら母性本能かよくわからない本能に促されるまま、その腕に収まるnameだったが。






―――シュバッ!!



そんな音がしそうなくらいの素早さで、nameは咄嗟に戦隊ヒーローさながらに身構えた。






「へ?nameちゃん何スかそれ?新手のラジオ体操?」

『トビくん、これには深ぁいわけがありまして……と、とにかく当分ハグは禁止!』

「え、えぇーっ!ど、どういうことっスか!?ボクnameちゃんに嫌われちゃった!?」

『ううん。アタシも好きだよトビくんのこと……でもね。アタシたちの間には、けして越えられない壁があるの。』

「まっさかぁ!そんな壁ボクが突き破ってみせますって!だからnameちゃんは安心してボクのところへ、」

『いやっ!駄目!駄目なのトビくん!これはもはやどうすることもできない……アタシたちは、元から離ればなれになる運命だったのよ!』

「そ、そんな馬鹿な!お願いだからnameちゃん、行かないで!」

『さよなら…っ!さよなら、トビくん!』

「!!nameちゃあああん!!!」

「何遊んでんだお前らは。」






一部始終を冷たい視線で見ていたオイラが、ようやくトビの野郎に顔面チョップをおみまいする。

ちなみにnameは、演技の延長で一人教室に駆け出してしまったためこの場にはいない。






「にしても、本当どうしちゃったんスかnameちゃん。先輩何か心当たりあります?」

「……あぁ、そうだ。そのことなんだけどよ、うん。」






そう前置きしたオイラは、自分より背丈の高いトビを無理矢理に捻り上げる。






「あれ?何だか理不尽なとばっちりの予感!」

「まぁそうだな……トビ、歯ぁ食いしばれ。」

「ぶひゃあああ〜!やっぱりぃ!」






とりあえずトビの下顎にかけてアッパーブローをおみまいすれば、オイラは苛立つ気持ちのまま教室へと向かっていった。


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