デイダラ長編 | ナノ
4.














アタシの席は、デイダラの斜め前の席だ。






肝心の隣はといえば、あのサソリ。

性格こそねじ曲がっているが、その頭脳は学年トップクラスである。






『ねぇねぇサソリ、ここ!ここ!今のワケわかんない!教えて!』

「そういうのは授業が終わってからにしろ馬鹿。」

『そんなケチ臭いこと言わないで、ね?』

「授業を理解しようとする前に、テメーのその行為がオレの授業妨害になってることをまず理解しろ。」






ん〜何をぅこの真面目ちゃんめ!この、このっ!

そうしてアタシがペン先で、ツンツンとちょっかいを出し続けていれば。






―――ぐにっ、

『ぎぃやあう!』






サソリはあろうことか、アタシのスカートから覗く太ももをつねってきたのだ。

突然の痛さに悲鳴をあげれば、周りでどっと起こる笑い声。



つねった本人は、さも涼しい顔で黒板のほうを直視している。






(こ、この策士め!後でクレームつけてやるんだからぁ!)

「…………。」






そんなアタシを斜め後ろから、面白くなさそうに見てくる視線に。

もちろんアタシは気づくことなく、ただサソリに付けられた痕ばかりを気にして授業を終えた。
























---------------






そうして迎えた放課後、アタシの開口一番はこうだ。






『まったく、君のせいで授業がてんで意味不明だったよサソリくん。おまけに怪獣みたいな悲鳴をあげて、アタシはクラスのみんなのいい笑い者だ。』

「なかなか傑作だったな。」

『ぎぃやあう。』

「何気に気に入ってんじゃねぇか。」






だって何か可愛いじゃないか、自分で言うのも何だけど。ぎぃやあう。

そうやって授業中の羞恥プレイが、早くも自分の中でも笑い話になろうとしていたとき。






グワシッ、

突然アタシの襟首が掴まれる。見れば不機嫌そうな顔したデイダラが。






『な、ちょ!おいおいデイダラ!まだアタシにはサソリとの決着が、』

「ククッ、御愁傷様。」






そうして有無を言わせぬ幼馴染みに、やむなくズルズルと引きずられ。



中途半端な会話をそのままに、アタシは強制退場を余儀なくされてしまった。
























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そうしてたどり着いた屋上では、ようやく深呼吸にありつける。






『ふぅー、はぁー!生き返った!ケホケホッ。』

「大袈裟だな。大体お前が抜けてるから周りにすぐ遊ばれるんだよ、うん。」

『違うよ!今回はサソリが絶対悪いもん!アタシはただ、わからないところを教えてもらおうとしただけなのにこの仕打ち!見てよこの生々しい痕!』

「キスマークみたいになってんな、うん。」

『キスマーク?』






キスマークってあれでしょ?女の人の唇の型みたいなの。






だがアタシが改めてその痕を眺め、観察してみても……そこはただ赤く腫れているだけ。

更に首をひねっていろんな角度から試みるも、やっぱり変わらない。






『……どのへんがキスマーク?』

「はぁ……name、お前ってホント無知すぎ。」

『うん?何が?』

「いや、知らなくていい。それはいいんだけどよ、うん。」

『これ当分消えないって!あぁもう目立つなぁまったく、ぷぅ……!』






この内出血がやがて青痣になり、早くても明日には鈍痛に変わるんだ、ちくしょう!

そう思案しながら頬っぺたを膨らませていれば、デイダラは無言でアタシの前まで歩み寄る。






するとその手をおもむろに伸ばし……
























ぎゅううううっ、



『ぎぃやああい!!!』

「……ほんと色気ないよな、お前。」






何てこった、彼はその手でアタシの太ももにある出来立てほやほやの痕をつねってきたのだ。

しかもアタシの悲痛な叫びを聞いても、しれっとしてみせる幼馴染み。






信じられんよ、これが世に聞く反抗期?






『痛い!痛すぎて言葉にならないよ!何てことしてくれるんだデイダラ!』

「上書きだ、うん。」

『意味がわからない!』






正直サソリにやられたときの数倍は痛いじゃないか。

こりゃあもう明日と言わず、2時間もすれば立派な青痣になるだろう。



加えて広範囲になってしまったその内出血を見て、アタシの気分は更に萎える。






せめてもの慰めとばかりに、アタシがその余韻の残る箇所をひたすらに擦っていれば……ポツリと耳に届いた声。






「他人に先越された後に躍起になるくらいなら、はじめから奪えりゃいいのにな。」

『……へ…?』

「ほら教室戻るぞ。掃除サボったら先公がうるせぇしな、うん。」






そうして次にはもう何事もないように、デイダラはアタシの横をスッと通りすぎる。

だが一人屋上の扉の向こう側に消えていく幼馴染みが、いつもよりちょっぴり小さく見えて。






『……ちょ、待ってデイダラ!何か悩み事ならアタシ聞くから―――』






グキッ、

とそこで視界がぐらり。



屋上の扉を越える際にある、変な出っぱりにつまずいてしまうというベタな展開。






「っ!!name!?」

『うがっ!』






振り返ったデイダラが咄嗟にアタシの手首を掴んでくれるが、それで支えられるわけもなく。






―――どさりっ

あえなく二人畳み掛けるように、固い廊下に墜落してしまった。






『イッタタタタ……まったく、今日は痛いことだらけだよ。デイダラ大丈夫?』






アタシが打った後頭部を擦りながら、涙目気味に瞼を開けたそこには。
























―――ぱちくりっ、

何に驚いているのか、デイダラはアタシを押し倒した状態のまま動かない。






『あぁよかった、デイダラが下敷きじゃなくて。ごめんね、ちょっと足引っかけちゃってさ。よいしょ、』

「ば、馬鹿!今起きたら、」






ようやく反応を見せたデイダラだが、その制止も聞かずアタシが身を起こそうと肘をつき、ぐんっ。






更に近づくお互いの顔。

鼻先をかすめるデイダラの匂い。






『どしたのデイダラ……もしかして怪我、したの?』

「…………!!!」






一向に動こうとしない幼馴染みを不信に思いその名を呼べば―――途端にその顔が真っ赤に染まった。






(!!ぐはっ!か、可愛い……!!)






それはアタシの脳内でつくり出されたもう一人の自分が、鼻血を出して意識不明の重体に陥るほど。

アタシはこの上ない絶頂に、このとき壮絶に悶えていた。






(こんなところで思わぬシャッターチャンス!……なのに手元にカメラがない…だと……!)






だがこの胸の高鳴りが、今あるこの現状が嘘偽りでないことを教えてくれる。

せめてこのときこの瞬間を目に焼きつけようと、アタシがキラキラした眼差しで更なる眼圧をかければ。






途端にデイダラの蒼い目が、キョロキョロとあたりを泳ぎ出す。






「お、おいname……、」

『ん?何だいデイダラ、アタシ今ちょっと忙しいんだが、』

「く、口に入るんだよお前の息……っ!」

『うん?あ、アタシもデイダラの息食べてるかも?』

「っ……は…!?」






そう指摘されて気づけば確かに、それほどまでにアタシたちは急接近していたようで。

アタシが起き上がったのに加え、がっつくようにその顔を見ているのだ。






いけないいけない……でももうちょっとだけ。

アタシが内心そう言い訳をして、更に食い入るように近づけば。






―――流れるような金髪も。

―――綺麗に整った目鼻立ちも。



その距離、ほんの数センチ…………
























―――が、そんなアタシに制裁とばかりに先生のお叱りが来るまで、あと3秒。
























ドキドキなのは、わりと君の方

『痛ったぁ〜!まさか先生からも拳骨を喰らうとは思わなかったよ。でも掃除サボったからって、何もこんな湿っぽい倉庫を二人っきりで掃除させることないのにね?デイダラ。』

「ば、馬鹿!ふ、ふふ二人っきりとか言うなお前!ふぅん!」

『…………ふぅん?』


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