デイダラ長編 | ナノ
20.














「ただいまー……ってお袋もいないのか。まだ真っ昼間だし。」






終業式により午前中に帰宅したオイラは、そんな誰もいない空間に上がりこむ。






「げっ、昼飯なんにも無いんだった、うん……今から買い出しとか、面倒くせぇ……!」






オイラはガックシと項垂れれば、仕方なしに冷蔵庫の扉をバンッと閉める。

唯一常備してある麦茶を注ぎ、それを一気にガブ飲みした。






「あーったく……明日から夏休みだってのに、何かパッとしないというか、何か物足りねぇ……。」






このモヤモヤするのはアレだ、nameだ。

今日だって終業式だってのに、せっかく下校するチャンスだったってのに。






「こんな日にまで赤の他人に構うなんて、ほんと馬鹿だよな……ったく。」






電気もつけず、外からの明るさだけで成り立つリビングで。

ソファにごろんと寝転ぶと、空腹で何もやる気が起きないオイラはそのまま眠りに落ちかけた、そのとき。






ガチャ、ばたん、ダダダダダッ

寝ぼけた思考の奥から、どんどん音が迫ってきたと思った次の瞬間。






ドスンッ!!

「ぐはぁ!!」






突如オイラの腹部に、それはそれは重い衝撃が加わった。






(ちょ、タンマ……!!これまじホントにやばいヤツ、まじで痛い……!!)






そうして何度も咳き込み、ようやく涙目の中オイラが見たのは。






「……な、んだよnameかよっ……!ていうかいきなり何なんだよ!?お前人の腹の上にダイブする奴があるかよ!!オイラ危うく死ぬとこだぞ、うん!!」

『……どうしよう、デイダラ……』






だがオイラの耳に届いたのは、あの馬鹿みたいに大きな声量ではなく。



今にも消え入りそうな、弱々しいくらいのそれで。

時折鼻水をすする音までする。






「は……?おい何だよ、泣いてんのか?お前まで打ちどころ悪かったとか?」

『アタシ…もうデイダラと結婚できない……』

「…………は?」

『しちゃったの……』






全く会話についていけない。脈絡のない話、脈絡のない会話。

するとオイラのワイシャツに顔をうずめたnameがモゾモゾと動くもんだから、不謹慎にもオイラの背筋がゾクゾクッと歓喜する。






つーか今更ながらこの態勢ヤバイ!!いろんな意味でキツイっての、うん……!!






「とっ……!!とりあえず降りろってnameっ、お、オイラいろいろもたないんだって……!!」

『だって……ふぇ…しちゃったのぉ……!』

「だから何を!?」

『ちゅー、しちゃったんだよぉ……!ふぇえん…っ!』






―――プツンッ、



……散々打ち震えていた自身の体が、一瞬で冷めるのを感じた。






「…………は?チューしたって、誰と?」

『さっ、サイくんと……アタシ、びっくりして…』

「誰だよそいつ。」

『チューしちゃって、アタシのはじめて……アタシ、赤ちゃんできちゃうの?もう結婚できない…!他の人とチューしちゃったら、あたしデイダラと結婚できなくなっちゃうよぉ、うわぁああん……!!』






……どうやら、キスしただけでそいつのガキが産まれると勘違いしているらしい。



そんなんでよく貞操を守ってこれたな、とか。

性教育の授業で何を学んできたんだ、とか……言いたいことは多かれど。






『いや、あたしデイダラじゃなきゃいやぁ……!デイダラと結婚するんだもん、赤ちゃんだってほしいんだもんっ、ずっとずっとデイダラと一緒にいたいのに、どうしたらアタシ、アタシ……!!』

「……できるだろ、結婚。」






そうやってパニックになっていたnameが、オイラの一言でピタリとやんだ。

その丸くて純粋無垢な目を更に見開いて、潤んだ目が希望の光を見つけたかのように揺れ動く。






『……ほ、ほんと?あ、アタシまだ間に合う?』

「あぁ。そいつとチューしかしてねぇんだろ?」

『うんっ、一回だけされて、アタシ怖くて逃げ出しちゃって、』

「じゃあ大丈夫だろ。そんなんでガキはつくれねぇし、結婚どうこうには関係ねぇからよ、うん。」

『ほ、ほんとに……?』

「あぁ。なんも問題ねぇな。」

『うっ……よ、よかったぁ…!』






そう言って心底安心したようにふにゃりと笑うnameに。



オイラはもう、フッ切れていた。





ぐいっ、どさっ



『ひゃ、』

「そりゃ問題はねぇけどよ、うん……オイラのほうは大アリなんだよ。」





オイラがnameを押し倒し、立場が逆転する。

ソファの上で広がったnameの髪に、オイラの金髪が垂れ下がる。






『へ……デイダラ…?』

「オイラの気も知らないで……ヘラヘラ笑ってんじゃねぇよ。」






このときオイラは、どうすることが正解だなんて考える余裕もなくて。



いつもみたいに、馬鹿だなって、キスどうこうで大袈裟なんだよって。

そう言って笑い話にしちまえば、いいだけの話……だったのに。






「オイラが教えてやるよ。本当に取り返しのつかないことがどういうことかって。」

『え……ひゃいっ!?』






オイラの左手が、ブラウスの裾をたくしあげ。

露わになったその皮膚の、発達段階なくびれを這う。






『な、何してるの?デイダラ……、』

「…………。」






……滅茶苦茶に、してやりたい。

何にも知らないその真っ白なキャンバスを、過激な色で隅から隅まで塗り潰したい。






オイラの右の手が、nameの左耳から髪をすき。

左脳を掴んだまま、ゆっくりと顔を近づける。






nameはぎゅっと、瞑っていた。

だからオイラは躊躇いもなく、その下唇に舌を這わせた。






『っ……、』






その小さな唇を、舌で愛撫するたびnameの肩が跳ね上がる。

その間にもオイラの左手が、触れることのなかった柔らかさへと伸びる。






触れたと同時に舌を滑り込ませ、ねっとりとしたキスをした。






(あーやば……まさかこんな形でするなんてよ……。)






だがそこには、既に先客がいて。

オイラがこうやって躍起になればなるほど、己の劣等感ばかりが膨れ上がっていく。






ーーーnameのはじめては、どんなふうなキスだった?






ー『ちゅー、しちゃったんだよぉ……!ふぇえん…っ!』ー






事故のような軽いキスなのか、長く息継ぎもできないほど濃厚なものだったのか。

互いの歯は触れたのか、舌を絡めたのか、唾液の味はしたか喘ぐ声は漏れたのか。



その全てがオイラの想像でしかなく、その他人とnameだけが知っている。






ー『大きくなったら結婚しようね!』ー

ー『デイダラありがとう。守ってくれたんだね、アタシのこと。』ー






あのnameが、オイラだけのnameが、オイラのnameじゃなくなっていく……オイラの知らないnameになっていく……ーーー!!
























『ーーー……ケ…テ………』






……ほんの小さな声だった。

だがそのきっかけで、口に広がる味に気づくには充分だった。






ハッとしてオイラが顔を離す、と。



……そこには口一帯が噛み切られ、体中も爪痕だらけの見るも無残なnameの姿があった。






……何だよ、これ……オイラがやった…のか……?






『タス、ケテ……クダサイ……』

「ッ……!!」






ヒューヒューと、細い息がnameの喉を抜ける中。

ようやく絞り出したその一言は、まるで犯罪者を相手にするかのような命乞いだった。
























官能ウラハラ未遂

顔を近づけたときに瞑った目は受け入れたからではなく、ただオイラを拒絶していたからで。



ビクビクと跳ね上がる肩は、快楽に震えていたのではなく。

ひたすらオイラに対する恐怖でしかなかったんだ。


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