17/3.
さすがにその場で話しかける勇気はなく。
放課後サソリに私情で帰る旨を伝えれば、アタシは昼間見たサスケくんを探した。
だが2学年の教室はもちろん、部活動で賑わう体育館に校庭、行くあてのあるような場所はしらみつぶしたが見つからない。
愕然と肩を落として仕方なく早い帰路につこうとすれば、アタシは家の少し手前まで来て立ち止まった。
『…………サスケくん……?』
「!!」
アタシの家の二階付近を仰ぎ見ていた彼は、話しかければよほど驚いたようで。
肩から提げたカバンが、思わずずり落ちてしまうほど。
『やっぱり……サスケくんでしょ?うちの学校に転入してきたのって。すごい久しぶり!来てたのならもっと早くに訪ねてくれればよかったのに!』
「あ……あぁ…」
『どうしたの?こんな時期に転入なんて。よかったら上がってかない?いろいろ話聞かせてよ!』
「…い、いや…いい……。」
徐々にテンションが上がっていくアタシとは裏腹に、どこか挙動不審な様子の彼。
それは昼間の大人びた姿からは想像もつかなくて。
『……プッ…サスケくん動揺しすぎだって……!』
「……!な、だって…姉さん……、」
『あーもう懐かしいその呼び方!ねぇねぇやっぱりうち来てよ!ちゃんとそれなりにもてなすからさ!』
アタシがぐいぐいと強引にその手を引くが、なかなか判断を決めかねている様子。
そうして散々迷った挙げ句、ようやくある条件をポツリと出した。
「わかった、わかったから。けど……」
『けど?』
「その……ただ話すだけなら、すぐそこの空き地がいい。」
『えーそんな、遠慮しなくたっていいのに。』
「オレがそうしたいだけだから、遠慮じゃないって。むしろ頼むから、ほんと……。」
どこか疲れたような顔をすると、彼は体を反転させてその目的地に向かっていく。
(……まだおんなじぐらいだな、身長。)
なーんて、いつ追い越されてしまうやもしれないそれを案じながら、アタシは彼の後を颯爽とついていった。
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そんな彼を先頭にたどり着いたのは、誰もいない殺風景な空き地。
だがここには思い出がある。
何を隠そう、ここは昔サスケくんの家が建てられていた場所の、ほんの一角の跡地。
中央の小さな桜の木は、そのとき意図して残されたものだ。
『ここもすっかり懐かしいね。町並みもあのころとは随分変わっちゃったし……あ、そうだ!今度はアタシがサスケくんに、この辺のことたくさん教えてあげるね!』
「……なぁ、姉さん。姉さんは今………」
すると何か言いたげなサスケくんは、視線を足元に落として言い淀む。
アタシが辛抱強く待てば、ようやく決心したようで。
彼は険しい表情のその顔を振り上げたのだが、
―――ぱちり。しかしアタシと彼の目が合えばどうしたことか。
途端に緊張に張っていた顔の筋肉を緩め、安堵するように息つくサスケくん。
『…何?どうしたの?言いたいことがあるなら言っちゃいなよ。』
「……いや、いいんだ。」
何故か自己完結させてしまうと、彼はその端正な顔を改めてアタシに向ける。
「姉さんが元気そうで何よりだ。」
『……!』
そう言って優しく微笑んでみせた彼は……月日をへだてたせいか、妙に魅力的な気がした。
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それから卒業までの短い間、アタシは幼馴染みとサスケくんとの間を行き来するような日々を過ごした。
だがいつも近くにいるサソリと違って、年の違うサスケくんとこうして話していられるという事実は。
アタシの中で、より甘美な響きをもたらしていた。
「……おはよう姉さん。」
いつも会うのは放課後なのに、毎回のようにそう切り出す彼が。
「姉さん、今でも理数系苦手なのか。」
さりげなく痛いところを突く彼が。
「クラスの女子が鬱陶しい。みんな姉さんみたいな奴らならいいのに。」
たまの愚痴かと思えば、さりげなくアタシのことを褒めてくれる彼が。
でもきっと……こうしてサスケくんといられるのも、あとほんのわずか。
もっと今の彼を知りたいのに、そんなアタシに時間はいつも容赦ない。
―『やだよ、サスケくん行かないで!ここに残って!お願い!』―
彼を引き留めるすべも知らず、別れた事実だけに後悔したあの日。
卒業の二文字が近づくにつれて、アタシのサスケくんに対する感情は次第に大きくなるばかり。
(……またあんな思いをするくらいなら…。)
それを思えば、アタシが決心するのは早かった。
離れてしまうなら、離れてしまわないよう口実をつくればいいのだ。
―――お互いが付き合うようになれば……そんな心配もなくなるのだから。
恋、命名アタシはこのとき、彼が好きだということを決定した。
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