17/2.
アタシが4年生に上がる頃、近所の子を一人うちで預かることになった。それがサソリとの出会い。
だがその赤い髪を見るのは初めてではなかった。
『サソリくん、だよね?学校でよく見かけるよ、その赤い髪。目立つもんね。』
「オレはテメーみたいな幸薄そうな女の顔、チラリとも見たことないけどな。」
いざ口をきいてみれば何て可愛くない。
アタシがその日からサソリに抱く印象は最高に悪かった。
だが前にも話しただろうか。サソリのご両親はよく家を空けていて、それを知った日から奴をうちで引き取るようになったことを。それを知るきっかけというのも残酷で。
『……近所でやってたお葬式って、サソリくん家の……?』
「チヨ婆さまだって。唯一あの子の面倒見てくれてたのに、それが先日亡くなったのよ。」
『…………。』
「だからあんまり野暮なこと聞いちゃダメよname。まだサソリくん、心の整理だって出来てないはずなんだから。」
相変わらずご両親は帰ってこない、他に親戚もいない……そんな境遇を見かねて、お人好しなうちの母さんがサソリを引き取ったのだという。
だがそれも今思えば、サスケくんと離れ離れになって寂しがっているアタシの胸中を察しての行動だったのかもしれなかった。
----------------
それからサソリに対する印象の悪さは、そのような奴の境遇を知ったことで幾分かかくはんされたのだった。
『サソリくん、一緒にゲームしよう?』
「テメーが負けたらアイス買ってこいよ。」
『……サソリくん、今日の宿題わからないの。一緒にやって。』
「オレは今ハム太郎に構ってるので忙しい。」
『…………サソリ、洗濯物。干して。』
「誰がテメーのガキ臭い下着なんか干すか。」
いつからか呼び捨てになり、サソリへの態度も煩雑なものに変わり。
だがそのような会話の中にも、目に見えない大きな信頼が生まれるようになっていた。
そうして中学生になり、デイダラのような友人も増え、早くも迎えた進路決定の年に。
―――一個下の2学年に転入してきた、イケメン男子生徒の噂が流れ始めた。
---------------
「はぁ?イケメンを見に行くだぁ?」
『そうよ。だって気になるじゃない、アタシたち3学年にまで届くくらいの騒がれよう。きっとよほどのイケメンくんに違いないわ。』
「このミーハーが。すでに目の前に最上級格のイケメンがいるってのに、まだ浅ましくその辺の男を漁る気か?」
『少しは自重してよその俺様発言。ていうか人を男に飢えてる、みたいな言い方しないでよね。』
「事実だろうがこの淫乱女。あぁ昨日も激しかったな、ったく腰が痛くならぁ。」
『聞いてるこっちが嫌になるようなホラ吹かない!っじゃあもういいわよ、一人で勝手に見てくるから。』
そう投げやりに言えば、アタシは後ろで騒ぐ言葉も無視して、さっさと教室を後にする。
「……あんの馬鹿が。何でここまでして気づかねぇんだ。」
「ん?何だよ、nameがどうかしたのか旦那?」
「テメーもか。はぁ…もういい……。」
---------------
アタシがその人で賑わう校舎に行けば、驚いた。
(……何なのこの女子率…。)
転入生が来たの、昨日の今日の話じゃないはずなんだけどな。
「いたいた!見てよあのルックスにクールな眼差し!しびれるわ〜!」
「えー見えない〜!」
「ほらあそこの窓際の席の!」
「きゃあああカッコいい〜!」
途端に涌く黄色い歓声は、もはやアイドル扱いである。
既に目の前の窮屈さに気が滅入りそうだが、ここまで来たからには何としてでも拝んで帰りたい。
背伸びするようにあちらこちらを探せば、人の頭と頭との隙間にようやくチラリと見えた。
つまらなそうに頬杖をついて、外の景色を眺めているその姿。
『…………え、……』
アタシは咄嗟に身を隠すように背を向ける。
あまりにも突然訪れたその再会劇。
(間違いない……あれ、サスケくんだ……。)
prev | next