16.
一瞬だけ見えた赤い不思議な目……その目がアタシを射抜いて放さなかった。
『……サスケ、くん…。』
「久しぶりだな、姉さん。」
近くまで歩み寄って再度言う彼は、やっぱり男の子で。
身長は、早くも差がつき始めていた。
『隣の高校、行ったんだね。その制服……』
「あぁ。name…先輩がそっちに通ってたの、知らなかったんで。」
先輩―――そう慣れない単語を使う彼は、中学のときの後輩でもある。
『ハハッ、やめてよ“先輩”だなんて!そういう上下関係、アタシ好きじゃないから。ましてやろくに先輩面できる立場でもなかったのに、』
「まぁ、言ってみただけです。」
『敬語も駄目!もう、久しぶりに会ったからって緊張してるの?また昔みたいにしてくれていいんだよ?』
「ならname姉さんは、」
アタシがおどけてみせても、彼はとても物静かで。
どこか風貌もお兄さんに似てきたなぁ、なんてオバサン臭く感傷に浸っていれば……落ち葉を巻き込み風が吹いた。
「今でも、オレを好いていてくれてるのか。」
どくん……、今さら鳴りもしない鼓動が主張を始める。
―『……好きよ、サスケくん…好き………。』―
そう告白したのは、今でも忘れない中学生最後の日。
天候はあいにくの雨……桜もどこか萎れ気味だった。
「嫌か?」
ビクリッ、
思わず肩を震わせて、恐る恐る目線を合わせれば……彼は困ったように首を傾ける。
「嫌いに、なったか?」
―――ずるい。そんなの、反則だ。
『……嫌いじゃ、ないよ。でも、』
こんなこと言うアタシは、もっとずるい。
『もう好きでも、ないから。』
「!」
『きっとあの頃はサスケくんを置いて、アタシだけ卒業しちゃうのが寂しかったんだ。ちょっと気が急いでたのかも、はは……』
「…………。」
『けどもう、あんなサスケくんを困らせるようなことも、言わないから……だからもう安心して、』
「じゃあ今のオレの“好き”は、どうしたらいい?」
『……え…?』
思考が、固まる。
だが再びそれが動き出したとき、ぽんっと真っ先に頭に浮かんだんだ。
あぁ……アタシはとんだ悪女なのかもしれない、なんて。
あとから効く魔法今さら彼をその気にさせるなんて、これは何の魔法だろう。
prev | next