15.
あれからというもの、サソリはどこか素っ気ない。
もちろん一緒に登校はするし、クラスでも普通に話す。
……だけど、二人きりのとき。サソリはめっきり口を閉ざすようになった。
『サソリ、ちょっと聞いてるの?』
「………んあ…」
『明日。ちゃんと調理実習の材料持ってきてよ?各自で持ち寄るって決めたんだから。』
「……あぁ、そんなことかよ。」
『そんなことって何よ、大事なことでしょ?』
「じゃあな。」
そうしてろくに目も合わせず、軽く手を上げただけで立ち去る後ろ姿。
……避けられてはいないんだけど、離れている感じ。
こんな矛盾する感情がアタシの心を占める頃。
―――最大の転機が、訪れる。
---------------
それは数日日の経った、ある日のこと。
話は一時間ほど前まで遡る。
「喧嘩したのか、うん?」
『……ケンカ、したのかなぁ…。』
アタシが曖昧な返事をすれば、隣に座るデイダラが呆れたように言う。
「何だよ、相談があるなんて言うから旦那にありもしない口実つくってまで抜け出してきたってのに。これでバレたらオイラの無駄死にじゃねぇか、うん。」
『ちょ、ま、ごめん。そんなつもりじゃなくて、』
「わかってるって。」
だがさすが、長年付き合いのある友人は違う。
勝手のわかるデイダラは、困るアタシを制止すると。その蒼い瞳が空を映した。
「何せ、オイラでも気づかなかったもんな。」
『……うん、だと思う。サソリ、みんなといるときは普通にしてるから。』
「心当たりはあるのかよ、うん。」
デイダラの言葉に改めて思い起こされるのは、この前の休日喫茶店であった出来事。
出来事というほど大したことではない気はしたが、他に思い当たるふしもない。
『えーと……んまぁ……、』
「なら話は早ぇじゃねぇか。さっさと旦那にそのこと謝ってこいよ、うん。」
『……それが…わからないの。』
「はぁ?原因はわかってんのに、あと何がわかんねぇんだよ?」
『サソリがそれで怒る理由……。』
アタシがやむなく休日の出来事を紐解けば……話が進むにつれて、デイダラも次第と顔をひきつらせる。
「おま、name……そりゃマズイって。ついでにそれを聞いちまったオイラもマズイ。」
『え?デイダラには何が理由かわかったの!?』
「嫌でもわかっちまうだろそんなこと!あー聞かなきゃ良かった親切なオイラの馬鹿!」
『ちょ、ちょっと何よそれ!?わかってるなら教えてよ!』
「言えるわけないだろオイラの口からそんなこと!じゃ、あとは自分で何とかしろよname!」
『な、ちょっとデイダラどこ行くの!?』
「オイラだって自分の身が一番かわいいんだ!どうやったら旦那のやつにとばっちり受けないで済むかを考えるんだよ、うん!」
それだけ言うと、デイダラはその長い金髪をなびかせて、颯爽と風のように姿を消してしまった……なんて薄情な奴だろう。
デイダラのバカヤロウ!もう一緒にクレープ食べてやんないんだから!
---------------
手持ちぶさたになったアタシは、一人早い帰路につこうとしていた。
(デイダラの無責任……かえって余計に不安材料増えたんですけど。)
結局のところ何も解決していない現状に、アタシが深いため息をついていると。
『ん……あれ、いつの間にこんなとこまで来たんだろ……。』
ふと顔を横に向ければ、そこはひどく殺風景な空き地。
その真ん中には今も残されている、とても小さな桜の木が。
(………あ……、)
……そのとき、声にはならなかった。
ただただ、目に映る“とある人物”に釘付けになっていた。
すると相手のほうでも何かを悟ったのか……その顔を、ゆっくりとこちら側へと向ける。
―――ピタリと、交わる二つの視線。
「……久しぶりだな、姉さん。」
カチリ、
アタシの中で、古い記憶がまた動き始めた。
リミッター、解除そう、ここだって。いつかの君にフラれた場所。
prev | next