11/2.
『今日のサソリ、何か変だよ。』
「…………。」
『普段は俺様なくせに、他人のアタシのことばっかり気にかけて。』
「……お前は他人じゃ、ねぇだろ。」
『他人だよ!!何さ!!散々カッコつけちゃって!!確かにあんたは人助けしていい気分でしょうけど、アタシからしたらいい迷惑……』
そこまで言って、はたと気づいた。自分がどれほど理不尽なことを言っているのか。
『……ごめん…そういうつもりで言ったんじゃ……』
「じゃあ帰んぞ。家につく頃にはママさんが心配してる。」
自分で言った今のセリフ、サソリに逆ギレされてもおかしくないレベルだったのに……何故奴はこうも冷静でいられるのか。
アタシは先を行く幼馴染みの後を行く手前、一度例の川面を視界に映す。
そうして血まみれな奴の手を介抱しに、足早にその場を後にしたのだった。
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あれから一週間、オレの創作活動兼美術部の提出用作品が仕上がった頃。
「……どうした、その手。」
『別にぃ?』
オレが声をかけるのも……本来は白いnameの手が、別の白いもので覆われていたから。
「何で包帯なんか巻いてんだよ、しかも両手。火傷でもしたのか?鈍感だな。」
『ちがいます!けど、はいっ。』
そう言うが早いか、奴は動かしずらそうな手でポケットを探る、と。
「……おま……」
『やあーっと見つけたんだから。正しくは“見つけに行けた”だけど。』
いつかのオレがしてやったように差し出されたその手には、光ることのなかった簡素なリング。
一瞬自分のものかと疑ったが、間違いないようで。
『思えばこれ、全然光沢なかったもんね。もののついでだから磨いちゃった。まぁ今回はそのおかげでカラスに持ってかれないで済んだけど。けど大事なものなら、たまにはちゃんと手入れしてやりなよ?』
「いや、お前これ、」
『にしてもあの川、見た目に反してキッタナイのね。ガラスの破片やら何やらまでいろんなものが捨ててあってさ。』
『これじゃあサソリとお揃いだね、』とその両手を見せびらかすようにオレの顔の前に持ってくる。
……オレも一度、自分の右手のところどころに巻かれた白に視線を落とした。
「けどお前、それ探しに行ったのって、」
『つい昨日だけど?サソリったらちっともアタシのこと解放してくれないんだもの。美術部の作品仕上げるまで、ずぅーっと付き添ってたからね、あんたに。』
そう、奴の言う通り。奴がオレに、落としたリングのことで負い目を感じていることはわかっていた。
だから、少しでも奴が変な気を起こさないよう、必ず放課後も美術室に連れ立たせていたのだ。
……まぁそれ已然に、オレはnameがいないと落ち着いてろくすっぽ創作活動ができないのだが。
『夕方以降は暗くなるし、母さんたちにも心配かけるから指輪の捜索なんかできないでしょ?』
「……それでオレが作品仕上げて、溜まったバイトに行ってる間に探したってわけか。」
『そういうこと。あ〜あ、大変だったなぁ、もっと早くに探しに行けてれば……なんてね、嘘!今回は、はじめからそうするつもりだったの。』
そう一人で話を進める幼馴染み。
視線はオレから外れてどこか遠くを見ている。
『よりによって、サソリの利き手に怪我させちゃったんだもの。作品づくりに支障が出ないはずないし。』
「…………。」
『ほんと、一時はどうなるかと思っちゃった。あんたもいくら口では凄んでみせたって、幼馴染みには何でもお見通しなんですからね!』
そう言って得意げにウインクしてみせる幼馴染みに、オレは自分の肩が一気に脱力したのを感じた。
……ったく、調子いいこと抜かしやがって。
『……ちょっと、何笑ってんのよ。』
「ククッ……いや、散々足引っ張った奴の言うセリフじゃねぇと思ってな。」
『なっ……!言ったわね!あんなに毎日美術室に通いつめてやったっていうのに!』
「テメーを目の届くとこに置かないで、また変なトラブル持ち込まれちゃ敵わねぇからな。」
『何を……!ッこれだけは言わせてもらうからね!』
そうして勢いよく踏み込んだかと思えば、奴はおもむろにその髪をかきあげる。
何をするのかと咄嗟に身構えるオレ……だが、視界にキラリと映ったのは、いつかのイヤリングで。
……正直拍子抜けた。
『今さらだけど、サソリ……見つけてくれてありがとう。』
そんな言葉とは裏腹に、どこか挑発的な笑みを浮かべる幼馴染み。
一杯食わされた……そう自覚すれば、オレはらしくもなく顔を背ける。
『はい、これ。』
「…………あ、あぁ。」
ややどもりながらも奴の手からリングを受け取れば、オレは早々にそれを己の指におさめた。
やけに光沢のあるそれには慣れなかったが……再び元の位置に定まれば、妙に心が落ち着いた。
―「オレは死ぬまでこのリングを外さねぇ……。」―
……自分でそう言っておきながら、おかしな話だ。
オレが守ってきたのは、確かに右の小指にあるはずの“約束”だったのに。
君に守られた指輪『ところで、何であの日あんなに熱心に探しに行ってくれたの?これだって、たかが市販のイヤリングなのに。』
「……物の価値ってのは、込められた思いに比例するからな。テメーがママさんに貰ったイヤリングしかり、オレの指輪しかり。」
『……うん、そうだね。』
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