02





 キリとは、いわゆる幼馴染だった。物心つく前から一緒にいて、家族のように一緒に育ってきた。
 いつも隣にいるのが当たり前、一緒に過ごすのが当たり前。そんな暗黙の均衡はいとも簡単に壊された。

 「ねぇ、悠一。内緒にしてくれる?」

 「何を?」

 「私ね、変なのが見えるの。お父さんもお母さんも見えないって言うんだけれど・・悠一は、見える?」

 きっかけはそんなキリの一言で、その時は茶化して終わらせたが、後々さりげなくキリにその彼女だけにみえる何かを聞いていくうちに、彼女もまた、自分と同じ体質なのに気づいたのだ。

 彼女は、相手のトリオン量が目に見えるサイドエフェクトをもっていたのだ。

 サイドエフェクトがあるということは、必然的に彼女もまたトリオン量が高いという事。
 まだボーダーが公の組織ではない頃だったというのと、自分が傍にいて彼女を常に守ればいいーーそんな安易な考えが災いしたのだと思う。
 ある日、彼女は忽然と迅の隣から、そしてこの世界からさえも姿を消したのだ。






 「・・それは、本当にキリちゃんなのか?」

 一連の流れを説明すれば林藤は念を押すように何度も聞いてくる。信じたいが、いまだかつて近界民に攫われて、あちらの世界から自力で帰ってきたのはいないーーそんな事実が重くのしかかるのだ。

 「・・間違いないです。あれは、キリです。・・長年一緒にいたんで分かります」

 そうか・・と林藤は安堵したような溜息を吐く。

 「なにはともあれ、良かったな。迅」

 はい、とそう言おうとしたところで廊下からつんざくような悲鳴が聞こえてきた。

 「!?」

 慌てて林藤の部屋を飛び出して、自室に向かえば宇佐美が部屋の前でおろおろしている。

 「あ・・! 迅さん、あの子が起きたんだけれど・・」

 「こないで!!」

 泣き叫ぶその声に、慌てて部屋の中をのぞけば涙で顔を濡らして部屋のすみで縮こまって震えるキリがいた。始終瞳を揺らがせて宇佐美と迅を警戒するように睨んでいる。

 「キリ、おれだよ」

 「もう、やだ、くらいのも、いや・・!」

 そっと近付けばキリはさらに壁によって体を縮こませる。迅のことさえも恐怖の対象としているらしい。

 「分かった、ほら、明るくしてやるから」

 手探りで壁に取り付けてある照明のスイッチを入れる。日が暮れて真っ暗だった部屋は一気に明るくなったが、キリは依然としてこちらを睨んでいる。

 「キリ、どうして・・」

 「やだ、もう、やだかえるの・・!」

 そう言って泣き出したキリに近付いて抱きしめた。こんなにも、彼女は冷たく細い体だっただろうか。いやだいやだと暴れだすキリを、なるべく怖がらせないように、傷つけないようにしっかり抱きしめる。

 「・・おれだ、悠一だよ、キリ・・帰ってこれたんだ、おまえは」

 やっと絞り出せた一言に、キリは暴れるのをやめた。少し体を離して彼女の顔を見る。

 「ゆう・・いち・・?」

 そして、彼女は続けてこう言った。

 「・・だぁれ?」



  
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