▼ 01
「・・キリ、取引をしよう」
その声は恐ろしい程に優しくて、心地よくて。私はそっと目を閉じる。
「俺の物になれ、キリ。・・そうすれば、一度キリを元の世界に行かせてあげよう」
甘い甘い誘いの裏にある私を逃がさない、という意思表示は何よりも私をここに縛るのだ。
「れーじ、ゆういちは?」
ここ数日何度となく聞かされた言葉に、木崎は何度となく答えた答えをそのまま返す。
「色々忙しいんだろう」
「んー・・」
納得したような、してないようなキリを撫でてやる。
ここ数日、迅は本部や任務やらでここには夜しかいなかった。もう迅以外とは話せないわけではないが、やはり迅がキリのなかで一番を占めているらしくキリは日中ずっとご機嫌ナナメだった。
「俺ももう出るが、宇佐美が来るから大丈夫だからな」
「こなみは? とりは?」
玄関にいく木崎の後ろをひよこの様について回りながらキリが聞く。
「小南も京介も明日にはここに来る」
「んー・・」
ぶすっとするキリに、靴を履くと問いかけた。
「・・何が食いたい、明日」
キリは一瞬ぽかん、とした後に笑顔になる。
「おむらいす、がいい」
「オムライスだな、分かった」
彼らに出会った時、ずっと望んでいた未来がすこし見えた。キリが、笑っているそんな未来。
「遊真、おまえボーダーに入んない?」
その一言に、空閑がすこし身構える。無理もない。ちょっと前に空閑を襲った人物はボーダーに所属しているのだから。隣の三雲も迅さん、と制止する。
「いや、ボーダーといってもウチの玉狛に、だな。玉狛にはあっちの世界の事にも理解あるやつばかりだし」
それに、と迅は付け足す。
「遊真たちには少し力を借りたい」
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