02




 「おー、キリちゃんご機嫌だねぇ〜」

 迅の膝の上で思う存分飾り付けたホットケーキを食べていたキリに、今さっき来たらしい宇佐美がリビングに入るなり声をかける。

 「しおりちゃん」

 「あ、それ食べ終わったらでいいからさ、キリちゃんちょっとこれをいじってみて」

 そう言って宇佐美が出したのは、キリがもっていたトリガーだった。

 「・・それ、いや」

 そう言ってキリは首をふる。

 「うーん、困ったなぁ・・一応こなみやとりまる、レイジさんに試してもらったんだけれど全く反応しないのよね」

 「・・という事は、ブラックトリガーってことか」

 「うん、しかもかなり好き嫌いはげしいブラックトリガーみたい」

 困ったな、と眉をさげる宇佐美にキリは言った。

 「・・しおりちゃん、つの、つけない?」

 怯えるようなそんな言葉に、その場全員が首を傾げた。

 「つの・・?」

 「もう、いや、あたま、いたいの」

 「・・キリ?」

 途端、キリの体がわなわな震えだす。異変に気付いた迅はキリを後ろから抱きしめて、顔を覗き込む。

 「あたま、いたい、いたい」

 がしゃん、とまだホットケーキが残った皿が落ちて割れる。キリは頭を抱えて叫びだした。

 「いや、いやぁぁ!」

 「キリちゃん?!」

 宇佐美はわたわたと慌て、陽太郎は叫ぶキリをどうにかしようとおろおろしている。

 「キリ、キリこっち向け!」

 「うっ、ゆ、いち・・のとな、り、かえりたい、いたいのいや・・!」

 ぐるり、と自分の方にキリを向けてまっすぐ瞳を見てやる。

 「大丈夫、キリは帰って来たから、な? キリ・・」

 ぽろぽろと泣き出したキリをしっかり抱きしめてやる。
 ここ最近はずっとキリは笑っていた。だから安心しきっていた。ーーまだ、キリはとてつもない大きな傷を抱えているのに。

 「どうした!」

 別室にいた木崎が慌ててリビングに来た。

 「あ、れ・・レイジさん・・」

 慌てる宇佐美と陽太郎、そしてキリをなだめる迅に状況はだいたい把握した木崎は黙って落ちた皿の片づけを始める。宇佐美は、すぐさまそれを手伝うように掃除機を持ってきた。

 「・・キリ、おれがついているから」

 もう泣くな、そう言いたくて口をつぐむ。見えた未来のキリも、泣いていたから。





 「なんかごめんね・・最近、キリちゃん調子よかったのに」

 そう言ってうなだれる宇佐美に迅は笑う。

 「いいや、おれも油断してたんだ」

 自室のベッドにキリを寝かしつけ、迅は時計を見る。夕日に照らされた時計は防衛任務の時間がもうすぐである事知らせていた。

 「・・あのね、迅さん。関係あるか分からないんだけど・・こなみがね、この前キリちゃんの髪の毛結わいてあげてた時に、頭に傷があるって」

 「傷、か」

 いいようのない不安に駆られつつ、迅は溜息をつく。

 「とりあえず、おれがいない間のキリは頼んだ」

 「うん、任せて」

 部屋を出る前にそっとキリを見て、大丈夫だと自分に言い聞かせる。再び彼女が消える未来は見えていない。ゆっくり、確実に以前の彼女を取り戻せればいいのだ。


  
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