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「ゆういち、ゆういち」
ここ最近、朝と夜は理性との戦いだったりする。
もはやパジャマと化した薄手のワンピースを身にまとったキリは、迅の腹に馬乗りになって迅の体をゆすって起こす。薄らと目を開ければ、露出多めなワンピースから覗くキリの白い肌に嫌でも目がいってしまうわけで。
「んー・・おはよ、キリ」
「おはよ」
どうにかなりそうな自分を抑える迅の内心などつゆ知らず、えへへ、と笑ってキリは迅の上に倒れこむように抱き着く。
「えーっとな、キリ」
「んー?」
「・・いや、なんでもない」
胸があたってる、胸が。
ちょっと大きくなった? と冗談飛ばそうかと思ったが、冗談を理解できないキリがそう言われた、と他の隊員に漏らしたら最後。間違いなくぶっ飛ばされるので、そこもぐっと抑えておく。
「キリ、そろそろ降りてくんない? 着替えられないから」
「うん、あのね、きょうはね、れーじがほっとけーきつくってくれるの」
「おおー、よかったな」
そう言って起き上がりつつわしわしとキリの頭をなでる。
「うん、よーたろーと、ほっとけーきにいろいろのせるの」
「そっか、それは楽しみだな〜」
「うん!」
そう言うと、キリはぱっと駆け出して部屋を出ていく。
(ここのみんなに懐いたのはいいけれど)
なんだか、自分だけのものだという優越感が消えていくような。何よりも望むのはキリの幸せだが、自分だけのものでいてほしかった気持ちもないと言ったらウソになる。
なんだかもやもやしつつ、迅はクローゼットをあけた。
「キリ! ホットケーキが来たぞ!」
「!」
「こらキリ。椅子に立つな行儀が悪い。陽太郎も少し待て」
リビングに入れば、もはや母親のようにホットケーキがのった皿片手に陽太郎とキリを叱る木崎が真っ先に目に入ってきた。
「はぁい」
注意されつつもキリと陽太郎はうずうずしている。
「朝からホットケーキ?」
「バカ言え、もう昼だ」
キリの隣に座りつつ文句を言えば、木崎にぴしゃっと言われる。何気なく時計を見れば、確かに十二時過ぎを指していて少し寝すぎたと後悔する。
「・・でもさぁ、レイジさん隣にキリがいてすっきり寝れると思う?」
仮にも自分は年頃ってやつで。ずっと想っていた子が隣で無防備に寝ているという状況は、とてもとても迅にとって耐えがたいことであった。
「・・お前な」
そうごちれば、木崎は冷たく迅を見据えた。そんな木崎に大丈夫、大丈夫と首をふる。
「絶対手出しいたしません」
「そうするのが賢明だな。・・もしも今のキリに手をだしたら容赦無くぶっ飛ばす」
「ですよねー」
「ゆういち、いちご!」
やっぱりそういいますよねー、と迅は溜息をつく。手を出す気もないが。
そうとも知らず、隣の幼馴染は無邪気に迅の口にイチゴを押し付ける。
「んー、ありがと」
「えへへ。もういっこ、もういっこ」
綺麗な指がイチゴをつまんで唇に近付く。できるだけ、キリの指を意識しないように奮闘しつつ口に含んだイチゴは甘酸っぱかった
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