▼ 02
「レイジさん」
「大丈夫だ、分かっている」
「お願いですむしろ聞いてくださいレイジさん」
あの後、何とか宇佐美にキリの相手と風呂を任せて先に自分の風呂を済ませたのちに、何も聞かずに黙々と朝食を作る木崎に話かける。
何故か木崎は悟った眼で頷いて一向に話を聞かない。迅は自分の席について運ばれてくる朝食を見つつ続けた。
「ほら、大分前に近界民に連れ去られた幼馴染の話しただろ? あの子がその幼馴染」
「・・あぁ、それで昨日は・・」
「だから聞けって」
その察したような、悟ったような目をやめてくれ、と箸をくわえながら木崎を睨むが逆に行儀が悪いと一喝されてしまう。
「あいつは、帰ってきたけれど記憶喪失な上に心が壊れて帰ってきたんだ」
「・・?」
「わー! やっぱりレイジさんの朝ごはんはおいしそうだねぇ〜」
そう言って入ってきた宇佐美は風呂上りなようで、木崎は首を傾げた。
「? 今入ったのか?」
「うん。まぁ、アタシっていうかキリちゃんが、かな・・ってあれ? キリちゃん?」
隣にいないことに気付いた宇佐美は慌ててあたりを見渡す。
「・・あの子か?」
リビングのドアを見れば、レイジをうかがうように先ほどの少女が立っている。
「あー、そっか。キリはレイジさんと会うのは初めてだもんな。キリ、おいで」
そういって迅が手招きすれば、キリと呼ばれた少女はぱぁっと顔を輝かせて迅の元へかけていく。しかし、依然レイジを警戒するようにうかがっていた。
「悪いな。どうも、人を怖がってるんだ・・あっちで、なんかされたからだろうけれど」
そう言って迅は、優しくキリを撫でながらとても冷たい目をした。
(記憶喪失に対人恐怖か)
「木崎レイジだ」
そう言って朝食の目玉焼きが乗った皿を渡してやれば、キリは少しだけ会釈した。
「大丈夫だよ〜、でかいし仏頂面だけどレイジさんは優しいんだよ〜」
「悪かったな、仏頂面で」
宇佐美は笑ってキリを撫でる。キリはちょっと嬉しそうに笑うと、ドアを見て言う。
「ぼす、ぼす」
「お〜、キリちゃんごきげんだなぁ」
少し寝ぐせ交じりの髪をがしがし掻きながら林藤はリビングに入ってくる。
「? しんいりか?」
その後ろにいた陽太郎が、雷神丸にまたがりつつキリをみた。どうやら動物と幼い子供は恐怖の対象じゃないらしく、キリは陽太郎に近付く。
「しん、いり?」
「おおー、おはよう、陽太郎。キリ、こいつは陽太郎。その下のは雷神丸」
「よーたろー、らい、じんまる」
「そうそう」
迅はそう言ってキリをなで、陽太郎に言う。
「こいつはキリ。新人っつーかなんだ、妹だな、うん。色々教えてやってくれ」
「いもうとか・・よくよくこのようたろうおにいちゃんのいうことをきけよ」
そういってドヤ顔する陽太郎のヘルメットに、宇佐美がチョップする。
「こら、ずるいぞ! アタシもキリちゃんに栞お姉ちゃんとか言われたい」
「・・宇佐美、怒る部分が違う」
そんなやり取りをニコニコしながら聞いていたキリを引き寄せる。
「キリ、ここは平気だから」
「うん、ここ、すき」
えへへ、と笑うキリにかつての彼女が見えたような気がして、迅もたまらず微笑み返した。
「・・で、本部への報告はしたのか」
キリが陽太郎と雷神丸に気を取られているうちに防衛任務へ行こうとしていると、後ろにいたレイジにそうきりだされた。
「ん〜、いや。どうせ近々呼ばれるさ。本部にはもうバレてる」
「みえたのか」
「そっ。まぁ、実力派エリートともなるとそれくらい簡単にみえるの」
冗談はよせ、と言われて迅はふと真顔になった。
「まぁ、おれがいない間のキリは頼んだ」
「それくらい任せておけ」
とりあえず、今言えることはいったので、行こうと一歩踏み出したところでまた、未来がすこし見えた。
「なるほど、ちょっと早く帰ってくるか」
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