03




 「キリちゃん寝ちゃった?」

 「あぁ、寝た」

 夕日がリビングに差し込んできたころ、一仕事終えた宇佐美がリビングに来てみれば、雷神丸の腹を枕のようにしてキリと陽太郎が並んで寝ていた。木崎は自室から持ってきた毛布を二人にかけてやる。

 「いいねぇ、なんかこういうの。陽太郎も相手が増えて楽しそうだったし」

 んふふ、と眼鏡を押し上げて笑う宇佐美に、木崎もふ、と少し笑う。

 「そうそう、迅さんが帰って来てからまた話すけれど、キリちゃんが持ってたーー」

 ここで、リビングの扉が控えめに開いて迅本人が帰ってきた。

 「相変らずタイミングいいなぁ、迅さん」

 「まぁな・・っと、きたきた」

 「?」

 迅はそう言ってリビングから出ると、つかつか不機嫌オーラを出しながらこちらへ歩いてくる少女ーー小南にしーっと言って自身の唇に人差し指をあてる。

 「? なんで? それよりもあたしのどら焼きが・・」

 「しーっ! こなみ、静かにー!」

 リビングに入れば、宇佐美と木崎もそう言って小南を小声で注意するのだから、小南は声のトーンを落として見慣れない少女を見下ろす。

 「なにこの子」

 「実はおれ・・恋人いたんだよ」

 「ウソ!? この子が!?」

 えっとキリを凝視する小南に、木崎は溜息を吐く。

 「ウソだ。この子は迅の幼馴染らしい」

 「あー、幼馴染・・って向こうの世界から帰ってきたの!?」

 「しーっ、キリが起きるだろ」

 迅はそう言ってキリの横に腰を下ろす。

 「うそ・・そんなの聞いたことない」

 呆然とキリを見る小南に、あー、そういえばと宇佐美がきりだす。

 「キリちゃんが持ってたトリガーの解析終わったんだけれど、残念ながらウチのデータにない未知のトリガーだから、向こうのどこの国にいたのかは分からなかったの」

 「・・そうか。まぁ、そんな気はしてたけどなー・・お、キリおはよう」

 「んー、ゆういち」

 キリはまどろむ目を擦って、迅をみるなりニコっと笑う。そして、小南に気付いたらしく不安そうに迅を見上げた。

 「こいつは小南桐絵」

 「・・こなみ、」

 「・・・・」

 小南はどこかうさん臭そうに冷たくキリを見下ろしたまま、微動だにしない。キリはそんな小南を見、

 「う・・っく、」

 泣き出した。

 「あー! こなみがキリちゃん泣かせたー!」

 「はあぁ!? あたしはただこの子がまだ信用できてないだけでーー」

 「おいこなみ、おれのいもうとをなかせるとはなにごとだ」

 「妹なの!?」

 「ウソに決まっているだろ、とりあえずキリに謝れ小南」

 「レイジさんまで!?」

 「あーあー、おれの恋人泣かせたなー」

 「やっぱり恋人なの!?」

 「迅は話ややこしくなるから黙っていろ」

 怒ったり驚いたりと百面相の小南に、キリはきょとんとした後に笑い出す。

 「あーもー、ガキは陽太郎だけでいいのに」

 「こなみ、おもしろい」

 「あたしは面白くない、ぜんっぜん面白くない!」

 輪の中で、楽しそうに笑うキリに安心する。ここならば、きっと彼女はすべてを取り戻せる。そんな未来が、見えた気がしたから。


  
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