▼ 03
「キリちゃん寝ちゃった?」
「あぁ、寝た」
夕日がリビングに差し込んできたころ、一仕事終えた宇佐美がリビングに来てみれば、雷神丸の腹を枕のようにしてキリと陽太郎が並んで寝ていた。木崎は自室から持ってきた毛布を二人にかけてやる。
「いいねぇ、なんかこういうの。陽太郎も相手が増えて楽しそうだったし」
んふふ、と眼鏡を押し上げて笑う宇佐美に、木崎もふ、と少し笑う。
「そうそう、迅さんが帰って来てからまた話すけれど、キリちゃんが持ってたーー」
ここで、リビングの扉が控えめに開いて迅本人が帰ってきた。
「相変らずタイミングいいなぁ、迅さん」
「まぁな・・っと、きたきた」
「?」
迅はそう言ってリビングから出ると、つかつか不機嫌オーラを出しながらこちらへ歩いてくる少女ーー小南にしーっと言って自身の唇に人差し指をあてる。
「? なんで? それよりもあたしのどら焼きが・・」
「しーっ! こなみ、静かにー!」
リビングに入れば、宇佐美と木崎もそう言って小南を小声で注意するのだから、小南は声のトーンを落として見慣れない少女を見下ろす。
「なにこの子」
「実はおれ・・恋人いたんだよ」
「ウソ!? この子が!?」
えっとキリを凝視する小南に、木崎は溜息を吐く。
「ウソだ。この子は迅の幼馴染らしい」
「あー、幼馴染・・って向こうの世界から帰ってきたの!?」
「しーっ、キリが起きるだろ」
迅はそう言ってキリの横に腰を下ろす。
「うそ・・そんなの聞いたことない」
呆然とキリを見る小南に、あー、そういえばと宇佐美がきりだす。
「キリちゃんが持ってたトリガーの解析終わったんだけれど、残念ながらウチのデータにない未知のトリガーだから、向こうのどこの国にいたのかは分からなかったの」
「・・そうか。まぁ、そんな気はしてたけどなー・・お、キリおはよう」
「んー、ゆういち」
キリはまどろむ目を擦って、迅をみるなりニコっと笑う。そして、小南に気付いたらしく不安そうに迅を見上げた。
「こいつは小南桐絵」
「・・こなみ、」
「・・・・」
小南はどこかうさん臭そうに冷たくキリを見下ろしたまま、微動だにしない。キリはそんな小南を見、
「う・・っく、」
泣き出した。
「あー! こなみがキリちゃん泣かせたー!」
「はあぁ!? あたしはただこの子がまだ信用できてないだけでーー」
「おいこなみ、おれのいもうとをなかせるとはなにごとだ」
「妹なの!?」
「ウソに決まっているだろ、とりあえずキリに謝れ小南」
「レイジさんまで!?」
「あーあー、おれの恋人泣かせたなー」
「やっぱり恋人なの!?」
「迅は話ややこしくなるから黙っていろ」
怒ったり驚いたりと百面相の小南に、キリはきょとんとした後に笑い出す。
「あーもー、ガキは陽太郎だけでいいのに」
「こなみ、おもしろい」
「あたしは面白くない、ぜんっぜん面白くない!」
輪の中で、楽しそうに笑うキリに安心する。ここならば、きっと彼女はすべてを取り戻せる。そんな未来が、見えた気がしたから。
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