恋は思案の外 | ナノ

03


 「と、外に出たところであんまりこの辺詳しくないのよねー」

 少しきょろきょろしながら道を進む。歩いた道だけ覚えて、行き当たりばったりでいけばいいか。冒険みたいで少しわくわくしつつ、足を踏み出そうとした、その時。

 「・・!」

 聞き慣れたサイレンが街中に響き渡る。ばっと見上げれば、空に大きな黒いゲートが見えた。

 (近界民・・!)

 今まで何度も見てきたが、やはりあの威圧感にはなれない。

 (でも大丈夫、追われるのなんて慣れっこなんだから)

 −−いままでも、そうだったから。

 ふと思い出した光景を振り払う様にキリは頭を振ると走りだした。





 ーーそこから少し離れたところ。聞き慣れたサイレンに、出水も顔を上げた。

 「おっ、ラッキー。おれら近いじゃん・・っておいおい!」

 隣にいた米屋はもうトリガーを起動させてトリオン体になっている。

 「おっさきー!」

 「おいこら米屋待て!」

 出水も慌ててトリガーを起動させ、トリオン体に変身した。

 (あっちはバムスターにこっちにモールモッドか・・)

 距離的に少し離れているから、どちらかは米屋に任せるしかない。

 「弾バカはバムスターな!」

 そうこう考えているうちに、米屋はひらひらっと手をふってモールモッドの方へと走っていく。

 「あー、アイツぜってーいつかぶちのめす」

 攻撃状態に入りつつ、出水はそう悪態をついた。




 「えぇっと、これはまさかもしかして・・追われてる?」

 ズシン、ズシンと一定の間隔で揺れる地面にあくせくしながら振り向けば、大きな近界民は真っ直ぐキリを見つめている。

 (つっても、目なんかどこにもなさそうだけれど!)

 そうひとでツッコミつつキリは全速力で走る。三門市に、近界民が現れるようになってからというもの、いつもこの型の近界民に追い回されるのだ。

 (胴体はデカいけれどトロいから、なんとかいけるはず・・!)

 しかし、近界民は大きく吠えると、大きなしっぽで建物をなぎ倒した。瞬間、あたりが暗くなる。ーーいや、違う。

 「うっそ・・」

 頭上から大きな建物のがれきが降ってきたのだ。キリは慌てて頭をかばうようにしゃがむ。
 瞬間、大きな破裂音がしてコンクリート片があたりに飛び散る。

 「え・・っ」

 「キミ、大丈夫?」

 恐る恐る顔を上げれば、そこには自分と同じくらいの少年がいた。両手には正方形で光る物体が浮いている。

 「だ、だい・・じょうぶ」

 「ならおーけー。ちょっとそこを動かないでね」

 理解できないまま頷くキリを見、彼は慣れた手つきで正方形の物体を操る。それはさらに小さく分裂し、一気に近界民に襲い掛かった。

 「はい、いっちょあがりー」

 「す・・すご・・」

 ぽかんと口を開けて驚くキリに、少年は振り向き手を差し出す。

 「だいぶ近界民に追い掛け回されてたっぽいけど、無事でよかった」

 キリは戸惑いつつも、差し出された手を借りて立ち上がる。少年の格好は、いつのまにか制服姿になっていた。

 「ありがとう・・まぁ、慣れてるから・・」

 「は・・?」

 「おぉー、出水、なにそのかわいい子。お前の知り合い?」

 ひらり、とキリの隣に着地した少年に出水と呼ばれた彼は答える。

 「バーカ、ちげぇよ米屋。近界民に襲われてたのを俺がかっこよく助けたの」

 「あーあ、こんな子いるなら俺がこっちやりたかったかも」

 いまいち二人の会話についていけないキリは、少し首を傾げてあることに気付く。

 「あ、あの・・もしかしてあなた達ボーダーの人・・ですよね?」

 「もしかしなくてもボーダーでっす」

 そう言ってニコリと笑う米屋と出水に顔が引きつる。
 絶対にでるなと言われた事を破った上に近界民に襲われました、なんてアイツの耳に入ったらどうなるか。

 「あ、ありがとうございました失礼します!」

 キリは口早にそう言ってその場を後にした。



 「なにあれ」

 「・・さぁ」

ものすごい勢いで遠ざかる背中に、出水と米屋はそろって首を傾げた。


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