02
「あの余裕面、ヘビースモーカーの大馬鹿!」
唐沢が出ていったのち、ゴスゴスと怒りをソファに置いてあるクッションに叩き込む。それでもやっぱり怒りは収まらなくてキリはいらいらとソファに座り直すと足を組む。
(・・にしても・・)
キリは昨日はあまり見ていなかった室内を見渡す。必要最低限なものが置いてあるだけといった印象の部屋は、微塵も生活感がない。
(そういえばあんまり帰らないとか言ってたっけ)
どんな仕事をしてるにせよ、結構高いマンションの一室を買っておいてもったいない、とキリは裕福な方である自分を棚に上げて文句をいう。
「にしても、何にもないわねー」
人の家ではあるが、遠慮せずに冷蔵庫や戸棚を開ける。あちらがキリを勝手に転校させたりするのならば、こちらだって遠慮はいらないだろう。ほとんど空っぽ状態のそこにキリは溜息をついた。
「勝手に色々覗くのはあまりいい趣味じゃないな」
ふとムカツク声が降ってきて、キリはむすっとしたまま顔を上げる。
「うっさいわね、勝手に転校させたあんたがいうか!」
まだ言うか、とすっかり身支度を整えた唐沢は煙草をくわえて首を振る。
「ってか、あんた仕事は?」
「誰かさんに叩き起こされたからもう早めに出ることにした」
「健康的でいいじゃない」
キリは、はんっと鼻で笑った。
「それはどうも。昼飯は勝手に食べててくれ。・・料理ぐらいはできるだろう?」
挑発的な視線にキリは言葉を詰まらせる。
「ば、バカにしないで! そんなの・・」
できるにきまってるじゃないーーと言いたいところだが、今まで家政婦にまかせっきりだったのを思い出す、が、この余裕面の手前そんなことは負けと認めたようで余計嫌だった。
「できるに決まってるでしょ! 分かったらさっさと行きなさいよ!」
はいはい、と唐沢は首を振る。
「・・あと、絶対ここからでるなよ」
それだけ言って、唐沢は出ていった。
(でるなと言われたら・・)
ーー出たくなる。
(お昼も買わなきゃいけないしね)
キリもさっさと身支度を始めるのだった。
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