学パロ



「こうすれば、先生私のこと見てくれるかなって思ったの。」

だから子どもは嫌いだ。
自分のことしか考えていない。

放課後の職員室で、俺の目に飛び込んできたのは担任と話をしているあいつの姿だった。
成績に影響する最後の定期考査、俺の受け持つ生物の授業のテストをあいつは白紙で提出した。前回のテストは満点だったあいつが白紙で出したことはちょっとした騒ぎになっていてテストを返却する前にこうして呼び出されたのだろう。彼女はどんな問いかけにも「1問も分かりませんでした」としか答えていない。
品行方正、成績優秀の彼女の態度に担任は頭を抱えていた。

「高橋先生、こいついいですか?こっちの教え方が悪かったからかもしれないんで。」
「ああ、阿近先生の授業でしたもんね。すみません。よろしくお願いします。」

持っていた教科書で頭を軽くたたいて「行くぞ」と声をかけた。あいつは俺の2歩後ろをゆっくりと付いてきた。そして、生物準備室に入るなりあのセリフを吐いた。


「はあ……ふざけんのも大概にしろよ?担任ハゲちまうぞ?」
「いいじゃん、高橋先生。結婚するんでしょ?本田先生と。」
「だからって虐めてやんなよ。」
「ん?高橋先生はなんとも思ってないよ?私は阿近先生とこうやってお話したいだけだから。」

だって好きなんだもん、そういってにやりと笑う。
だから子どもは嫌いだ。
自分のやったことが正しいと信じて疑わない。


「はいはい。そーいうのは聞き飽きました。」
「本気だと思ってないんでしょ?」
「思うわけないだろ。」
「ひどいなー。本気なのにな?」
彼女は一つに結んでいた髪をすっと解いた。

「だいたいお前は生徒で俺は教師なわけ。歳だって離れてるわけよ。わかる?」
「わかんない。生徒とか教師とかの前に私は私で阿近さんは阿近さんじゃないの?」


こいつは俺の気持ちなんてこれっぽっちも考えていない。
真面目なフリして、取り繕ったってこいつが内に秘めている好奇心は隠しきれていないしなによりその目が俺の中の加虐心を煽っていることだって。
必死で俺が耐えていることも、隠してることも、俺がこいつのことが好きだってことも、こいつは何も知らずにこうやって近づいてくる。

おれはため息をついてタバコに火をつけた。


「あー。行けないだー。先生のくせにこんな所で煙草なんて。」
そう笑うこいつの唇に俺は思いっきり噛み付いた。

「お前は俺のことを先生だなんて思ってねーんだろ?」
そう唇を離してタバコを吸いながらそういえば顔を真っ赤にして俯いている姿が目に入る。

「あんま大人舐めんじゃねーぞ?」



そう言って後ろを振り返れば俺の腰に細い腕がまわった。

「嫌じゃない、よ。」



何度目かのため息をついて、勿体ねえと思いながらタバコの火を消した。
振り返ればさっきよりも赤い顔をした名無子が腕の中にいて、あれ、こいつとなんでこの部屋に入ってきたんだっけかななんてぼんやりと頭の片隅で思いながら白くて細い首筋に噛み付いた。

真っ白のワイシャツに赤い血のシミがついた時やっぱり子どもは嫌いだと思うのだ。


俺を、こんなに惑わせる。
子どもは大嫌いだ。
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